短話

□噂を纏って煙に巻く
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※噂屋ヒロイン






人ゴミの絶えない池袋のとある通り。映画館の前で一人、制服姿の少女が苦笑いを浮かべていた。少し離れた場所にいるのはえらく顔立ちの調った男。
小さくため息をつき、少女は手に持っていた携帯電話をぱちりと閉じた。

「あーらら。どういうことでしょう…私が待ち合わせ連絡を取っていたのは、クルちゃんとマイちゃんだったんだけどな」

「君か、噂を好き勝手流してる噂屋は」

「ご存知でしたか。さっすが、クルちゃんとマイちゃんのお兄さん」

「ついでに言うと君の名前も誕生日、血液型、出身地や家族構成も把握済みなんだけどね。まあ今日来たのは君に忠告するためだ」

道行く人々は彼女らに目もくれず歩いていく。

「わざわざどうも。その様子だと、例の“噂”は楽しんで貰えたみたいですね」

「…アレはやっぱり君の仕業か」

苦虫を噛み潰す寸前の表情になった男に、少女はウィンクしてみせた。

「いえーす。女の子って、恋の噂好きじゃないですか。
だから広まるのがすごい早くって、気がついたら池袋中がその噂だらけ!」

「その噂に尾ひれがついて、今やさらに悪質なものになってるの分かってる?」

「もちろんですよ。それが楽しくて噂やってるんですから。そしたら噂屋なんて呼ばれるようになってましたけどね!
どうですか?ドキドキしちゃったりなんかしちゃったりしましたか?」

「…冗談じゃないね。至極不愉快だ」

「でしょうねー。
その噂というのも、“折原臨也と平和島静雄が会うたびに喧嘩をしているのは、”」

「“昔恋仲だったが喧嘩別れしたからだ”だろ?」

「その通り。でもまさか噂源である私を捜し当てるなんて予想を超えてました。
ちょっと舐めてましたかね」

あははと笑って空を仰いだ少女。が、不意に何かに気付き、すばやく横に跳んだ。瞬間、その場に巻き上がる土煙と轟音。

「…わーあ」

『それ』を避けた少女の引き攣った声、晴れた煙の先のコンクリートに突き刺さっているひしゃげた標識。
折原臨也の背後から現れたのは、バーテン服を纏った長身。

「どいつと……どいつが……恋仲だってぇえ……?あ"あ"ッ、ノミ蟲よお!!」

「落ち着きなよ。噂を流したのはあのコだよ、シズちゃん」

臨也が指差した少女の行動は早かった。
制服の胸ポケットからすばやくデジタルカメラを取り出し二人へ向け、強く光るフラッシュ。眩しさに一瞬動きが止まる。
そして残光が残る視界の中で、少女は満足げに頷いた。

「二人並んで仲良くツーショット。
これで噂の信憑性が上がりますよ。まったく、噂のネタには困りませんねえ」

それじゃ!と踵を返し駆ける少女。二人が逃がすまいと後を追う。しかしこの時、池袋の人の多さが仇となったのは言うまでもない。
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