短話

□狭い宇宙で話そうか
1ページ/1ページ






「死ねばいいのに」

言い告げたその声に抑揚はなく、瞳は憎悪を隠さない威圧を帯びていた。
言われた言葉とは反対に、思わず口角が吊り上がる。なんだ、こんな表情も出来るんじゃないか。4年前の自分の判断は買い被りじゃなかった。少女は、成長している。
それは決して、前向きな意味ではなく。

ソファーの膝掛けに肘を付いて座る少女。綺麗、というよりは若干愛らしすぎる顔にこれ以上ないほどの不機嫌を浮かべ、これじゃあまるであっちがティエリア。
飾りの無い、真っ白なワンピースが蛍光灯に反射して眩しい。



「言っておくけど、ティエリアと同じ顔だからって殺せなかったわけじゃない」

「おや、どうして?」

「さあね」

「嫌でも答えさせてあげようかな?」

言えば、ハン、とあしらわれて会話が途切れる。
身ぐるみをはがされた、武器を持たない『ただの少女』は、時折もどかしそうに眉を顰める。一見、純麗で一点の汚れのないような少女の容姿は、纏う不機嫌オーラで全てが台なし。
純白でシンプルなワンピースと百合の肌も、裏世界に属する者ならすぐに血染めの紅に変わる。

それが僕には堪らなく愉しいわけで。感情を隠さない僕の表情に気がつくと、凄まじい形相で睨みつけ、舌打ちして視線を窓の向こうに戻す。
これが、あの4年前の甘ちゃんだと誰が信じるだろう。見た目は全く変化していないというのに。
何が君をそこまで歪めた?
君は何かを失った?
代わりに何かを得た?
僕は聞きたくて堪らない。
そして、その不機嫌の表情を崩して苦痛に喘ぐ君を見てみたい。
それを声に出したら、「黙れ、死ね、変質者」と言われてしまった。

嗚呼、いたいけな少女を突くのはなんて愉しいのだろう!









狭く暗い宇宙にて
(死ねばいいのに?いいや、今この場で殺してやる!)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ