ファイとわたしの宝物

□猫になった話
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一通り詮索したところ、見る限り彼は現在私の居る台所と居間にはおりませんでした。
彼を見つける、探し出すには、まずこのエリアからの脱出を図らねばなりません。

しかし私の前には、ドアノブという、思わぬ敵が立ち憚っています。
こんなことならドアノブがレバーハンドル型の家に住むんだった。後悔先に立たず。
しかしこんな展開を想定した上で物件なんて探したはくない。


私は猫である。
そして今私は、ドアを支えに二足で直立に立っている。猫ながら。標的はドアノブ。しかし私の頑張りは虚しく。どう考えてもこの短い前足が、ドアノブに届くわけもなく。限界までまで伸ばした前足が空をきる。おしくもない。
胃の底から、どっと虚しさが押し寄せた。
もっと猫に優しい家に住むんだった。
あと、もれなく私には猫元来の飛躍力は備わっていないらしく、大抵の物に上れなかった。
猫になっても運動音痴だというのだろうか。
猫としての生活力は皆無である。


次は、ガリガリと猫のように窓を引っかいてみた。

あけてくれー、あけてくれー。おそとにでたいよー、を、アピール。

自由になりたいが故のヤケクソ。
しかし勿論無意味である。

部屋の隅で悲しみに暮れた。
私は一体何してるのだ。

脱出ゲームというものがある。それで私は一度も、脱出が成功したことがない。
脱出できた事がないのだ。
不穏。
そしてここからも自力で脱出できる気がしない。
前途多難。いやむしろ袋小路。この八方塞。
これを打開する術はあるというのだろうか。
大人しく待つ、という手もありだが、あやつが日が暮れるまでにこの部屋へ戻ってくる、という保障はない。気まぐれな男だから。
いい迷惑だ。戻れるならば、早い方がよい。

私は情けなくも仕事を溜めていて、その仕事の締め切りが明日だったりする上に、その仕事の量がこの一日で終わるのかも怪しい量なわけだ。
これは実にまずい。


誰か助けて!切羽詰まってきた。

もうなんか10時間ぐらい経っている気がする。体感時間にして10時間。しかし時計の針はまだ20分しか経っていないと訴える。

私はというと、ここから脱出するために、ありとあらゆる手段を思案し、その思案したありとあらゆる手段を実行に移し、挫折した。そして今に至る。手という手は尽くした。
私は真っ白に燃え尽き、机の上にうつ伏せに寝転び項垂れていた。もう疲れた。私は疲弊している。

私の頑張りを何から何まで無に帰するドアノブ。
私の考えが至らないからか。自省。


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