東京アンダーグラウンド
□光
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今までは気付かなかった。
闇に閉ざされたこの世界にも、光があることに……。
光
あれから1ヶ月が過ぎた。
最近では第8階層治安局長失踪の話題もあまり聞かなくなった。事件の当事者である自分たちとしては好都合だ。
そのかわりに度々噂になるのが、風使いに関する騒ぎだった。
どうやら、相変わらず各地で暴れているらしい。『決戦』を前に騒ぎにならぬよう、大人しくしていようという考えはないようだ。まあ、風使いらしいといえばらしいが……。
高麗は窓の桟に頬杖をついたまま、小さく息をついた。
窓の外では、人工照明の光が徐々に赤味を帯び、夕暮れの時刻であることを告げている。だが、依然として街の喧騒は衰えを見せない。
それとは対照的に、しんと静まり返った空間。そこにまた一つ小さなため息が零れた。
高麗は座っていた古びた椅子から立ち上がると、なるべく音を立てないように気をつけながらコップに水を注いだ。
そしてそれを一息に飲み干すと、申し訳程度に備え付けられた小さなテーブルの上にコップを置いて、再び座っていた椅子に戻る。いつもだったら、使ったらすぐに洗え、と言われるところだ。
先ほどと同じように窓の外を眺めやった高麗はふと、風使いが以前言っていたことを思い出した。
無関係なはずの地上の人間が何のために戦うのか、その目的を訊ねたら、奴はこういった。
公司に捉えられている生命の巫女を助け出すためだ、と。
くだらないと思った。
他人のために危険を犯して戦うなど、馬鹿のすることだと思った。
でもそれは、本当は、命を懸けてでも護りたいと思う『誰か』が、自分にはいなかったから、奴をやっかんでいただけだったのかもしれない。
緑色の瞳に強い光が宿った。
仲間なんて要らない――。
ずっとそう思っていた。
彼女に、出会うまでは……。