帰路を駆け抜けていたダンテが、一瞬、立ち止まった。 「バージル…?」 体が熱い。体の感覚がふわふわと頼りなく、落ち着かない。 心なしか、鼓動が早い。まるで――。 はっと顔を上げ、ダンテは再び走り出した。 自分の体が熱を出したような感覚だった。 まるで、バージルみたいに。 「バージル…!」 (ちくしょう…!俺はばかだ!なんてばかなんだよ!) どうして熱が出るのかって?――ウイルスと人間の体が戦っているからだ。 ならば、傷などたちどころに癒えてしまう半魔が、熱を出して倒れたのは? (人間の血と悪魔の血が争ってるからに決まってんだろ!) 「バージル」 赤毛の女の姿が薄れた。 変わりに、冷たい青がこちらを見上げている。 「バージル」 銀髪をさらさらとうちなびかせ、青い冬空のような瞳をした少年は、多分、自分のほうだ。 彼は、つややかなコートの裾を子供らしく引っ張った。 「ねえ、どうして、ここにいるの?」 意図を測りかねて沈黙するのに、彼は矢継ぎ早に口を開く。 「いつまで、ここにいるの?」 これは、はたして夢なのだろうか。 この子は答えを求めているのではないようだ。 (なぜ……いつまで……) 問われる言葉の答えを探しあぐねて、バージルは驚いた。 「ねえ、バージル」 (なあ、バージル…) 「バージルは何がほしいの?」 (もう行くな…ここにいてくれ…!) 「それとも…」 (あんたが目の前にいるのに…やっとあんたの手を掴まえたのに…) 聞こえる弟の叫びは、真の心の悲鳴なのだろうか。 無言で答えを探すバージルを、幼い影はあどけない残酷さを滲ませ、笑う。 ――それとも 「何かが必要なの?(What you “need”?)」 (もう一度、目の前から滑り落ちるなんて…独りなんて、まっぴらだ…!) ――なあ、ダンテ (なあ、バージル) ――これは、お前の望みか? (大好きだよ、愛してる) |