洋書

□Dei et mi familiae
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帰路を駆け抜けていたダンテが、一瞬、立ち止まった。

「バージル…?」

体が熱い。体の感覚がふわふわと頼りなく、落ち着かない。
心なしか、鼓動が早い。まるで――。
はっと顔を上げ、ダンテは再び走り出した。

自分の体が熱を出したような感覚だった。
まるで、バージルみたいに。
「バージル…!」

(ちくしょう…!俺はばかだ!なんてばかなんだよ!)

どうして熱が出るのかって?――ウイルスと人間の体が戦っているからだ。

ならば、傷などたちどころに癒えてしまう半魔が、熱を出して倒れたのは?

(人間の血と悪魔の血が争ってるからに決まってんだろ!)










「バージル」

赤毛の女の姿が薄れた。
変わりに、冷たい青がこちらを見上げている。

「バージル」

銀髪をさらさらとうちなびかせ、青い冬空のような瞳をした少年は、多分、自分のほうだ。
彼は、つややかなコートの裾を子供らしく引っ張った。

「ねえ、どうして、ここにいるの?」

意図を測りかねて沈黙するのに、彼は矢継ぎ早に口を開く。

「いつまで、ここにいるの?」

これは、はたして夢なのだろうか。
この子は答えを求めているのではないようだ。

(なぜ……いつまで……)

問われる言葉の答えを探しあぐねて、バージルは驚いた。

「ねえ、バージル」

(なあ、バージル…)

「バージルは何がほしいの?」

(もう行くな…ここにいてくれ…!)

「それとも…」

(あんたが目の前にいるのに…やっとあんたの手を掴まえたのに…)

聞こえる弟の叫びは、真の心の悲鳴なのだろうか。
無言で答えを探すバージルを、幼い影はあどけない残酷さを滲ませ、笑う。

――それとも

「何かが必要なの?(What you “need”?)」

(もう一度、目の前から滑り落ちるなんて…独りなんて、まっぴらだ…!)

――なあ、ダンテ

(なあ、バージル)

――これは、お前の望みか?

(大好きだよ、愛してる)





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