洋書

□Dei et mi familiae
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再会は容赦ない殺し合いだった。


この屋根の下で初めて目覚めた時も、そうだった。


絶望的に話が交わらないがゆえの激烈な口論や、得物がないだけで殺意は変わらぬ掴み合いや、事務所が半分消失するような流血沙汰など、何度やったかわからない。


それが、いつから本気で歩み寄り、心の内を言い合い、こうして静かに思い返すようになったのだろう。


最初は、「家族」や「愛情」、「心」を押しつけてくるダンテが疎ましく、それを黙らせるために「理解する兄」を演じていたのだと思う。


いつの間に“悪くない”とまで思えるようになったのだろう。
なにがここまで惹きつけるのだろう。

そして、何が求めさせるのだろう。
バージル自身へ、かつて求めていたはずの“力”以外の、何か特別なものを。









少女が立っている。
赤毛で、そばかすの、ごく平凡な顔の娘だ。
その彼女が、ごくありふれた娘と違っているのは、視線だった。
怯えと強い緊張の中にも、挑戦的な光を湛えている。
胸元に吊り下げられた、赤い石が閃く。
その輝きは、彼女の目に光る奇妙な自信と同じだ。

「アリス――」

魔界の石を身に付け、“女”の体を手に入れた使い魔。
蒼い半魔の強力すぎる魔力、それに対する劣等感の裏返しで“スパーダの力”を飾り、魅力的な肉体に装った。

「あなた以外は、褒めてくれた」

無感動なバージルの目に怯え、張り詰めてきた使い魔の、大胆ささやかな反逆らしかった。

「嫌い!その目……あ、あたしを……!」

過去と全く同じ光景。
やはり夢だ。
バージルの頭が急速に冷えていく。

「バージル」

次に呼ぶのは、誰だろうか。




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