洋書

□Dei et mi familiae
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神の手が落ちるまで



「おはよう。気分はいかが?」
「最悪だ」
「だろうな」
無理のしすぎだ、と額にキスが落とされる。
「どんな貴重な本だか知らないが、依頼詰め込んで働き過ぎだ」
バージルは、ため息まじりに髪をかき上げた。触れた額は自分でも信じられないくらい熱い。
「半魔でも熱は出んだな」
「…そのようだ」
「もしかして知恵熱?」
「下らん」
「ジョークだって。そういや俺、最後に病気したの、いつだっけな…」
「馬鹿は風邪をひかない、という諺があるそうだ」
「なっ…ひでえな!」
「ただのジョークだ」
つんと澄まして美しい横顔を見せるバージルが、なぜだか無性に愛しくなった。
安心した、と、ダンテは言う。
「なんか、人間らしいとこ残ってんだ。疲れてぶっ倒れるとか」
「貴様、ばかにしているのか」
「違うって…嬉しいんだよ、あんたが人間の部分を切り離したりしてなくてさ」
「当然だ。俺たちは半魔、人の血は消えない」
いちいち素直でないが、少なくとも今のバージルは、自身に流れる“心ある人間の血”を否定しない。

人がたやすく悪魔の誘惑に屈するように、悪魔の力は容易に人の血を抑圧するものなのだ。

(昔のあんたなら、悪魔の力を選んだかもしれないが…)

今は、人の世で、人を愛する家族とすごすことを選んでくれた。

(少しはうぬぼれていいよな…?)

仕事へ出るのが惜しい。が、愛しい本人の依頼を肩代わりするのだから、迷ってはいられない。
「…じゃあ、すぐに戻ってくるから」
「手を抜くな。最善の仕事をしてこい」
「わかってるさ」
そのときだけは、鋭く不敵なハンターの眼差しで笑う。
その目にぞくりとする魅力を感じる事実を、バージルは言わない。
そして、その目はすぐに心配そうな表情に戻った。

「いってくるから」

扉が閉まった後で、ああいうダンテも悪くないと思ったのは、自分でも予想外だった。




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