降り注ぐ雨音が、さあさあと耳元をすり抜けている。 淡いガラス絵の笠ごし、柔らかな光を投げかけるスタンドをはさんで、ダンテはネリーと向かい合っていた。 「ネリー、俺たちに話し忘れたことはないか?」 少女の黒髪がふるふると横に揺れる。 だが、その大きな瞳は幾度もまたたき、ダンテと窓の外を忙しなく行き来する。 「何でもないように見えて、実はとんでもない大当たりってことも有り得る」 はっと、ネリーがこちらを向いた。 ダンテが穏やかに微笑んでいる。 「小さなことが、棘みたいに刺さって苦しかったりもする。そんなときには、誰かに話しちまうほうが、よっぽどいい」 ネリーの瞳に、涙が盛り上がる。 「おじさん…」 「ん?」 「あの…夢の話…」 「そいつは大事だ」 「続きがあるの…」 ダンテの眉が微かに動いた。 が、動揺をおくびにも出さず、頷いた。 「話してみな」 「夢の中で、私は嵐のヘザー湖にいるの。…連れて行かれるの…」 「何だって…」 「行きたくないけど、夢ではいつも最初から湖にいて、逃げられない…」 「あんたを連れて行く張本人は、誰だ…?」 ネリーの瞳から、また大粒の涙がこぼれる。 「言ったらお父さんを殺す、って…」 「そいつは…」 言いかけたとき、玄関から間違えようもない話し声が聞こえてきた。 「バージルが帰ってきたな」 ダンテは優しくネリーの頭を撫でた。 「バージルにも聞いてもらおう、あんたを怖い目に遭わせるのは誰なのか…」 帰ってきたバージルを迎えたバートン夫人は、戸惑ったような表情になった。 「いったいどうなさったの?お帰りはもう少し遅くなると…」 「ネリーの“悪夢”の正体がつかめた」 「まあ…」 周囲を見回す夫人に、バージルもまた視線を走らせる。 「ダンテ、それに、ネリーも呼んでもらおう」 「は、はい」 彼女が娘の部屋へ向かうより早く、ダンテがひょいと顔をのぞかせる。 「バージル、帰ってきたのか。丁度いい、ネリーの話を――」 瞬間、バージルは扉へと走った。 「ネリーから目を離すなッ!」 「!」 同時に、ネリーの悲鳴、そして大きな物音が響いた。 一つはルシフェルの爆発音、もう一つはすぐ後ろだ。 バージルが舌打ちして振り返ると、開け放たれた玄関から激しく風雨が吹き込むのみ。 そこへ、ダンテが駆け寄ってきた。 「バージル、やられた…ネリーが神隠しだ」 「…こっちもだ」 「ん…!?」 妻の姿も、忽然と消えてしまっている。 激しさを増す雨が、風に揺れる扉から吹き込み始めていた。 |