洋書

□悪夢
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「じゃあネリー、もう一度、説明してくれるかな?」
「はい……」

ベッドの上に体を起こした少女――ネリー=バートンは、げっそりとやつれた顔で頷いた。
年相応の白い頬には血の気がなく、ハシバミ色のつぶらな瞳の下には、隈が浮き出ている。

「お父さんが家にいない夜は、いつも怖い夢を見るの…荒れたヘザー湖のほとりで、一人ぼっちで立ってる夢……何か怖いものが待ってるってわかってるのに、逃げられないの……怖い…寝るのが怖いよ…」

唇を振るわせて口をつぐんだ少女は、ぽろぽろと涙をこぼした。

「今日もお父さんが出かけちゃう…きっと怖い夢を見るの……もうやだ…」

時折、怯えたように視線を走らせるのは、彼女の精神が常に昂ぶっていることを示している。

白いネグリジェに隠された、痩せた背中が、少女の嗚咽に合わせて震える。
その小さな肩に、ダンテは優しく手を触れた。
「俺たちは、あんたの悩みが解決するまで、絶対にここを離れない。約束する。安心しろ、必ず、原因を突き止める」
その穏やかな、力強い言葉に安心したのか、少女は涙をぬぐって頷く。




ベッドから少し離れて様子を見守っていたバージルは、隣に立つバートン夫人を見やった。
「今日の天気は雨…だったな」
「ええ、宿直になると、主人から電話がありました…」


バートン家の在る、ここダーネルワース村のはずれには、ヘザー湖という小さな湖がある。
ヘザー湖では昔から、雨の強い日には風が無くても強い波が立つという、不思議な現象が起きていた。
このため、村議会は30年以上前から湖沼管理官を設置し、風雨の強い日はヘザー湖を監視するようにしていた。

現在、湖沼管理官の一人が、ネリーの父・ギル=バートンであり、ネリーが悪夢に悩まされるのは、決まって雨の強い夜、すなわち父親のギルが不在の時だった。


「調べを進めるのは今夜か…」

冷たい青の瞳が窓を見る。
分厚く古風な、淡い緑のガラスに、雨が落ち始めていた。




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