洋書

□シェオルの沈黙
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「わざわざおいで下さるとは、光栄ですなあ」

のんびりした口調の依頼人は、それこそ街中の喫茶店の主人のような物腰である。
礼装の軍服や重たげな徽章を除けば、の話だが。

「許昌中央司令部・参謀大佐の荀公達です」

握手してもいいですか、と律儀に断りを入れる彼に、バージルは無言で右手を差し出す。
ぶんぶんと上下に揺すらんほどしっかりと握手する様子に、実直な性格が見て取れる。

「最初に聞いておきたい」
「はい、どうぞ」
「これは、軍――国家としての依頼か、それとも、あなた個人の依頼か」
「私個人の依頼です。いやはや、こんな格好でお願いするべきではないのですが…」
「構わない。心に偽りがないのであれば」

というよりも、眼前の人物は、謀略のためであれば偽るが、人として欺くことは無いからだ。
それが、事前に収集した情報から組み立てた、この事実上の参謀司令官の姿だった。


「では、本題に入りましょうか、バージルさん」



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