洋書

□Indirect way of secret heart
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ぴかぴかに磨き上げられた調理台に、甘酸っぱい香りが立ち上る。
ガーベラ模様のポットから注がれたお茶は、ルビーのように鮮やかな紅い色。

「これ、お茶…?」
「さくらんぼのお茶よ。いい香りだけど、とっても酸っぱいの。砂糖を多めに入れて、ちょうどいいくらい」

はい、とシュガーポットが置かれる。
白い陶製の容器に添えられた、ほんのりと温かな色の指先。
何気ない仕草、何ということもない光景。
不意に心臓が高鳴る。

「あ、あの…キリエ…」
「なに?」

昼の明るい光を浴びた微笑は、本当に優しい。

「あ…いや、砂糖ってどのくらい入れるもんなのかな、って…」
決意とは裏腹、唇は心ほど勇気を奮ってくれない。
「そうねえ…スプーンに山盛り、くらいかしら」
このくらいよ、と、目の前ですくってみせる、柔らかな色の手。
喉元まで出かかった言葉を呑み込む。
「はい」
目の前に差し出されるシュガースプーンも、ぎこちない動きで受け取るしかない。


――さっさとプロポーズしとかないと、隣からさらわれちまうぜ、坊や?


甘い香りのお茶は、そういえば、お節介で憎たらしいまでに余裕綽々の、あの男の衣装とそっくりな色をしている。

(うるさい…)

八つ当たりのような気持ちで、スプーンに山盛りの砂糖をカップへぶちまけてやる。
すると、お茶の色はますます鮮やかな赤い色になって。
それが妙に腹立たしくて、いささか荒っぽくカップの中をかき回す。

負けるもんか、と思った。




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