ぴかぴかに磨き上げられた調理台に、甘酸っぱい香りが立ち上る。 ガーベラ模様のポットから注がれたお茶は、ルビーのように鮮やかな紅い色。 「これ、お茶…?」 「さくらんぼのお茶よ。いい香りだけど、とっても酸っぱいの。砂糖を多めに入れて、ちょうどいいくらい」 はい、とシュガーポットが置かれる。 白い陶製の容器に添えられた、ほんのりと温かな色の指先。 何気ない仕草、何ということもない光景。 不意に心臓が高鳴る。 「あ、あの…キリエ…」 「なに?」 昼の明るい光を浴びた微笑は、本当に優しい。 「あ…いや、砂糖ってどのくらい入れるもんなのかな、って…」 決意とは裏腹、唇は心ほど勇気を奮ってくれない。 「そうねえ…スプーンに山盛り、くらいかしら」 このくらいよ、と、目の前ですくってみせる、柔らかな色の手。 喉元まで出かかった言葉を呑み込む。 「はい」 目の前に差し出されるシュガースプーンも、ぎこちない動きで受け取るしかない。 ――さっさとプロポーズしとかないと、隣からさらわれちまうぜ、坊や? 甘い香りのお茶は、そういえば、お節介で憎たらしいまでに余裕綽々の、あの男の衣装とそっくりな色をしている。 (うるさい…) 八つ当たりのような気持ちで、スプーンに山盛りの砂糖をカップへぶちまけてやる。 すると、お茶の色はますます鮮やかな赤い色になって。 それが妙に腹立たしくて、いささか荒っぽくカップの中をかき回す。 負けるもんか、と思った。 |