若い嵐のようなグリーン・レディを追い返した双子が、いささか疲労の濃い表情でキッチンへ帰還したときには、既にブランチとも呼ぶべき時間になっていた。 コーヒーはぬるくなり、トーストは溶けたバターでしんなりとしている。 それでも、お預けをくらった腹の虫は勢いよく目を覚まし、盛大に餌をよこせと鳴き始めている。 「とりあえず、腹減ったな」 「ああ」 「飯、食おうぜ」 「食べるとするか」 いつの間にやら習慣の付いたサラダをもさもさ頬張りながら、ふと、ダンテは思い返した。 「そういや、いわくつきの指輪、とか言ってたよな」 「いわくつきのジュエリーなど、腐るほどある。本物は1割にも満たない」 優雅にコーヒーをすする兄からは、思ったとおり、にべもない答えが返ってきた。 「ロマンと可能性を追っかけてみようぜ、お兄ちゃん。その指輪が“本物”なら?」 「ふ、ん…」 鼻を鳴らしたバージルが、カップを置く。 「本当に魔の宿った指輪なら、大人しくカラスにさらわれるとは思えんがな」 「カラスを操って目的の場所へ運ばせる、とか」 「俺が指輪であれば、そんな面倒なことはせず、前の持ち主を操るが?」 「ぐっ…」 早々と論破されてしまったが、このまま引き下がっては会話が切れてしまう。 「じゃあ、こんなのは――」 と、ダンテが言いかけるより早く、バージルが入り口を見やる。 「どうした?」 「来客…か?」 「またかよ…」 うんざりしかけたダンテの前に、制止するように兄の手が突き出された。 「いや、待て」 バージルの眉がぐっと吊り上る。 兄の鋭く尖った視線に、ダンテもとっさに身構える。 ダンテ、と、宝石のような青い瞳が目配せした。 「中にいる」 さっき、再び鍵を掛けたにも関わらず、だ。 「悪意は無いみたいだな…」 「油断はするな」 厳しさを増すバージルの視線とは逆に、ダンテの目は興奮にきらりと光を帯びる。 「今度も“女”だと思うね」 ひそひそと囁くが、兄は振り向かない。 が、僅かに睫が瞬いたのが解った。 「気に食わんが、俺も同じ予想だ」 ほら、やっぱり。 「行こうぜ」 「上等だ」 |