朝の嵐のようなお嬢さんの話というのは、至極簡潔であった。 「話は簡単、さる占い師のペットを探してほしいのよ」 デスクへ置かれた写真には、一羽の、ごくごく普通のカラスが写っている。 「はあ!?」 ダンテが間抜けた声を出した。 もっとも、バージルも内心では、疲労に近い脱力感を覚えていたのだが。 「てめ…っ、朝っぱらから散々騒いどいて、たったそれだけかよ!」 ――いいぞダンテもっと言え。 もはや応対する気にもなれないバージルは、カミツレの香りの向こうで、適当に弟を応援していた。 「ペットって、この貧相なカラス!?インチキ占い師の雰囲気演出のお飾りを探すほど、こっちも暇じゃないんだよ!」 ここぞとばかりに、あてつけがましく大げさなリアクションで反応してやる。 「こんな下らない話のために、俺とバージルの貴重な朝の時間が無駄になったかと思うと、悲しさで涙が出るね!」 新婚夫婦のようなのろけはやめろ、と、内心でツッコむ兄の心の声は、勿論、ダンテには届かない。 「話を最後まで聞きなさいっての!ただ逃げたんじゃないの、指輪をひっかけて逃げたのよ!それも、いわくつきの!」 「どうせ、訳ありの客にいい加減なこと吹き込んでせしめた品物だろうが」 「そんなことどうでもいいの、あっちはあんたたちをご指名で、仲介すれば私も儲かるのよ」 あけっぴろげ、ある意味で爽快ですらある事情の説明に、ダンテは肩をすくめた。 「悪魔も泣き出すビジネスマンだぜ、まったく…」 「お褒めの言葉どうも。で、どうする?引き受けてくれるの?」 「お 断 り だ ね !」 20代も半ばを過ぎたいい大人が、zeeeee!と唇をひん曲げる様子に、バージルは本日何度目かの頭痛を覚えるのだった。 |