洋書

□Catch her if we can?
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「まったく、出るんならさっさと出たらどうなの」

ソファの上に座ったレディは、お冠で紅茶――バージル特製の出がらし――に口をつける。

「苦っ…来客にお茶も満足に出せないの?」
「うるせぇよ、ガミガミ女。表の看板も読めないのか?」
「散々居留守を使っといて何言ってんのよ」
「営業時間って単語はお前の辞書からきれいさっぱり抜け落ちたみたいだなぁ、おい!」

二倍に増えた騒音に微かな頭痛すら感じつつ、バージルはカモミール茶をすする。
彼に今できる、最大限の精神安定の手段である。

「だいたい、“居留守”より“留守”って単語を思いつかないか?」
「ふん、あんたたちとの付き合いをなめないで。こんな場所で、朝っぱらからキッチンをまともな料理に使う家が、どれほどあるもんですか」

勝ち誇ったような表情で言い放つ悪友に、ダンテはぐっと言葉に詰まった。
結果的にバージルの行動を誉められるのは、悪い気がしないのだ。

「そろそろ本題に入れ、レディ」

ようやく収拾が付いたらしい騒音に、バージルは溜息をついて会話を引き取った。


「あら、うっかりしてた」
ダンテを一瞥すると、レディはまた一しきり紅茶を飲み、その渋さに顔をしかめた。
「バージル…いい男なんだから、紅茶の一杯くらいまともに淹れられるようになりなさいよ」
「善処しよう」
仏頂面で答えるが、バージルにとって出がらしの紅茶は、日本の逆さ箒と同義である。
「おい…俺とバージルは一卵性の双子なんだが…?」
「甲斐性無しのダンテが、キッチンをまともに扱えるわけないじゃない」

悪賢く齢を重ねた女ほど性質の悪いものはない、と、自分に言い聞かせて、ダンテは何とか拳を抑える。

何といっても、話がはかどらないことに苛立ち始めた兄の視線が、痛いほどに無駄口を戒めにかかっているのだから。




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