便利屋「Devil May Cry」の朝は、スラム街のど真ん中という立地にもかかわらず、それなりに穏やかである。 無論、住人である双子の兄弟が一触即発の状態でなければ――更に言うなら、主夫ともいえるバージルの怒りに触れなければ、の話だが。 この状態を「逆鱗に触れる」と言い換えても正しいあたり、兄弟の精神的な力関係が如実に現われ出ている。 そんな双子の家に、朝から勢いよくノックの音が響き渡った。 「んだよ、うるせーなぁ!」 風呂上りの格好で、ちゃっかり卓上のトマトを一つまみ失敬しようとした指先に、びしりと指弾が飛ぶ。 「痛っ!」 「せめて座れ、ばか者」 スクランブルエッグとグリーンサラダを山盛りに乗せた大皿と、ミルクの入ったジャーを両手に抱えたバージルが、冷蔵庫を背に仁王立ちしている。 いまや台所は彼の城、黒い天使の領土はかくも平和で美味しいのだ。 そうこうする間も、ノックの音は諦めない。 応対に出ないことに苛立っているのか、最初よりも叩き方は乱暴で、少々ご老体の建物に響いてやかましいことこの上ない。 「あーうるせー!」 「看板は“CLOSE”にしてあるのだろう?」 「もちろん。戸締りだって、あんたと確認したろ」 「だな」 留守かもしれないという思考は、ノックする者の脳内には存在しないのか。 ダンテがげんなりした顔をする。 「どうするよ…」 バージルもこめかみを押さえる。 「あの調子では、出るまで叩き続けるだろうな」 双子は顔を見合わせ、盛大に溜息をついた。 タフな半魔だって、腹は減るのだ。 |