「よく潰さないで残したな、こんな気持ち悪い場所…」 北西の管理棟、地下通路へ続く扉を開けた瞬間、湿気とかび臭い異臭が吹き抜け、ダンテは顔をしかめた。 左右に牢獄らしき腐った扉が並ぶ、暗黒の世界。 多くの怨念と悲嘆を飲み込んで朽ち果てた闇は、双子にとって何ということもないが、好んで長居したい場所では確実にない。 「自分のベッドの下にこんな場所があるとは、ぞっとしない話だけどな」 ある意味、すごく寝覚めの悪い話ではある。 足元を我が物顔に這っていく虫やらなにやらに、ダンテは顔をしかめた。 「頻繁に出現しているなら、もっと気配や魔力が残っているはずだが…」 「別の気配なら腐るほど感じないか?お兄ちゃん」 「ふ、ん…違いない」 エボニーが中空へ火を噴く。 誰もいるはずのない闇に、身の毛もよだつような悲鳴が響いた。 「やれやれ、こいつが幽霊退治にも効くなんてな」 生きた魂を求めさまよう、何十という幽鬼たちが、双子に取りすがろうと腕をのばしている。 その様を冷たく一瞥したバージルが、愛刀を一閃させた。 人と魔を分かつ刀は、幽明を分ける刀でもある。 眠れぬ死者の群れが一瞬で滅び去っていくのを後ろに、双子は早くも通路を疾走し、群がる亡霊をなぎ倒していく。 自らの怨念によって、醜い、おぞましい姿に変貌した怨霊たちは、苦痛に満ちた悲鳴、あるいは恨みの咆哮を上げながら、次々と消滅していく。 「sweet dreams!」 歪んだ憎悪に縛られた魂は、眠ることも知らない。 瞑目しないから、復活もできない。 ここで滅ぼしてやるのが、せめてもの慈悲だろう。 「しかしまあ、何だってこんなにうろついてんだか…」 湿った地下道を歩きながら、ダンテは退屈そうにアイボリーを玩んでいる。 時折、闇に鋭い閃光が走る。まとわりつく死霊を、兄が無言で斬り捨てているのだ。 「こんな薄気味悪い所を、わざわざ残しておいて通路まで作る……何ていうか、きな臭いね」 「同感だな。あるいは、あのキルトンとかいう男、黒魔術でも試しているのかもしれんな」 冗談でもなんでもなく、バージルはごく真剣に言っている。 「怨霊を閉じ込め、呪う標的へ向けて解き放つ。そういう黒魔術も、あるにはある」 「……ほんと、伊達に本を読み漁ってるわけじゃないんだな、バージル」 「フン…」 「ともかく、さっきの幽霊連中の怨念が、無関係の悪魔を呼び寄せてる可能性もあるわけだ」 パティに冗談で言った、部屋を一つ一つしらみつぶし作戦が現実味を帯びてきて、ダンテはげんなりした。 「…いや、ネヴァンがいるな…一部屋に使い魔一匹として…」 「おい、何をぶつぶつ言っている。とにかく、本当にユニコーンなのか、どこから出てくるのか、確認してから動いても遅くはあるまい」 「あのじいさんが素直に事情を話すかねえ。傭兵まで雇ってんだぜ?」 「そいつらを締め上げて吐かせる手もあるぞ」 「いやいやいや、あんた本気で実行するだろ、それはまずい」 パティの教育上にもよろしくない。 「ま、とにかく、今夜を待ってからだな」 さ、とダンテは兄を促す。 「こんな居心地悪い場所は、とっとと退散しようぜ」 怨みつらみや苦しみで眠ることを忘れ、哀れにもおぞましい姿に堕ちた亡霊たちは、所詮双子の敵ではないし、目的でもない。 「もうじき戻る、って、ネヴァンたちに伝えてくれ」 付き従ってきたコウモリに伝言すると、使い魔は音もなく闇へ消えていった。 |