洋書

□La Bravez Fille
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「よく潰さないで残したな、こんな気持ち悪い場所…」

北西の管理棟、地下通路へ続く扉を開けた瞬間、湿気とかび臭い異臭が吹き抜け、ダンテは顔をしかめた。
左右に牢獄らしき腐った扉が並ぶ、暗黒の世界。
多くの怨念と悲嘆を飲み込んで朽ち果てた闇は、双子にとって何ということもないが、好んで長居したい場所では確実にない。
「自分のベッドの下にこんな場所があるとは、ぞっとしない話だけどな」
ある意味、すごく寝覚めの悪い話ではある。
足元を我が物顔に這っていく虫やらなにやらに、ダンテは顔をしかめた。
「頻繁に出現しているなら、もっと気配や魔力が残っているはずだが…」
「別の気配なら腐るほど感じないか?お兄ちゃん」
「ふ、ん…違いない」
エボニーが中空へ火を噴く。
誰もいるはずのない闇に、身の毛もよだつような悲鳴が響いた。
「やれやれ、こいつが幽霊退治にも効くなんてな」
生きた魂を求めさまよう、何十という幽鬼たちが、双子に取りすがろうと腕をのばしている。
その様を冷たく一瞥したバージルが、愛刀を一閃させた。
人と魔を分かつ刀は、幽明を分ける刀でもある。
眠れぬ死者の群れが一瞬で滅び去っていくのを後ろに、双子は早くも通路を疾走し、群がる亡霊をなぎ倒していく。
自らの怨念によって、醜い、おぞましい姿に変貌した怨霊たちは、苦痛に満ちた悲鳴、あるいは恨みの咆哮を上げながら、次々と消滅していく。
「sweet dreams!」
歪んだ憎悪に縛られた魂は、眠ることも知らない。
瞑目しないから、復活もできない。
ここで滅ぼしてやるのが、せめてもの慈悲だろう。
「しかしまあ、何だってこんなにうろついてんだか…」
湿った地下道を歩きながら、ダンテは退屈そうにアイボリーを玩んでいる。
時折、闇に鋭い閃光が走る。まとわりつく死霊を、兄が無言で斬り捨てているのだ。
「こんな薄気味悪い所を、わざわざ残しておいて通路まで作る……何ていうか、きな臭いね」
「同感だな。あるいは、あのキルトンとかいう男、黒魔術でも試しているのかもしれんな」
冗談でもなんでもなく、バージルはごく真剣に言っている。
「怨霊を閉じ込め、呪う標的へ向けて解き放つ。そういう黒魔術も、あるにはある」
「……ほんと、伊達に本を読み漁ってるわけじゃないんだな、バージル」
「フン…」
「ともかく、さっきの幽霊連中の怨念が、無関係の悪魔を呼び寄せてる可能性もあるわけだ」
パティに冗談で言った、部屋を一つ一つしらみつぶし作戦が現実味を帯びてきて、ダンテはげんなりした。
「…いや、ネヴァンがいるな…一部屋に使い魔一匹として…」
「おい、何をぶつぶつ言っている。とにかく、本当にユニコーンなのか、どこから出てくるのか、確認してから動いても遅くはあるまい」
「あのじいさんが素直に事情を話すかねえ。傭兵まで雇ってんだぜ?」
「そいつらを締め上げて吐かせる手もあるぞ」
「いやいやいや、あんた本気で実行するだろ、それはまずい」
パティの教育上にもよろしくない。
「ま、とにかく、今夜を待ってからだな」
さ、とダンテは兄を促す。
「こんな居心地悪い場所は、とっとと退散しようぜ」
怨みつらみや苦しみで眠ることを忘れ、哀れにもおぞましい姿に堕ちた亡霊たちは、所詮双子の敵ではないし、目的でもない。
「もうじき戻る、って、ネヴァンたちに伝えてくれ」
付き従ってきたコウモリに伝言すると、使い魔は音もなく闇へ消えていった。




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