山のように積み重ねられたデリバリーのピザの空き箱や、1ダースはあろうかというビールの空き缶や、見るも恐ろしい度数が印刷された酒瓶、ソファを占領する洗濯物の山…その他、諸々のごみの山を予想して開いたドアの向こうには、しかし、がらんとした空間が広がっていた。 「あれ・・・?」 引っ越したのかしら、と思ったが、壁に並んだ不気味な剥製(?)や、ドラムセットと並んで紫色の不気味なギターが置いてあるのを見て、少なくともここに住んでいるという事実は確認できた。 「ダンテ、いないの?」 少し声を大きくして呼ばわれば、意外にも、すぐ家の主は姿を見せた。 「どうした、パティ」 「……ダンテこそ、どしたの?」 「……」 沈黙。 パティの指摘はもっともで。 腕まくりをしてモップとバケツをもつダンテなんて、今までに見たことが無かった。 ――明日は恐怖の大魔王が降臨するのかも… 見てはいけないものを見ちゃったようなパティの視線を受けて、ダンテは急いで掃除道具を床へ下ろした。 「あ、あのなぁ!俺だってやるときはやるんだ!」 「ふーん…」 「おまっ…信じてないだろ!」 「だって、あたしがお掃除してる時、手伝ってくれたことないじゃない」 「いや、それは…」 「そんなことだろうと思った」 すぐ後ろから聞こえた声に振り向けば、謎はすぐに解決した。 「なるほどね」 ダンテは憮然と視線をそらした。 「うるさい…」 「バージルが帰る前に掃除を終わらせようとしてたんでしょ」 「うっ…うるさい、お子様はお茶の用意でもしてきな!」 「うるさいのはお前だ」 さりげなく鋭い突っ込みを入れながら、バージルはパティの頭に軽く手をやる。 「客に茶の一つも出せんとはな。…パティ、ケーキでも食べていくか?」 「やった!バージルのお茶って、街のカフェよりずっと美味しいのよね」 味覚に素直なパティの言葉に目を細め、キッチンへと歩き出すバージル。 その後姿を呆然と見送っていたダンテだが、はっとあることに気付いた。 「ちょ…!まさかケーキって、俺のとっておきストロベリームースじゃないよな!?」 「安心しろ、今買ってきたほうを出す。二つしかないからな」 「微妙に俺の扱いがひどくない!?」 「客を優先するのは当然だ」 それに、と、ダンテの足下へ所在なげに置かれたバケツを指差す。 「片付けが済んでいないだろう。お前のおやつは、それが終わってからだ」 「わかったよ!あ、俺の分も用意しとけよ!」 「掃除をサボったくせに偉そうなことを言うな」 「うっ…!」 「冷める前に片付けて来い」 てきぱきと動き出すダンテを後目に、バージルはさっさとキッチンへ消えた。 |