深更。 Devil May Cryの窓には、ぽうっと小さな常夜灯が浮かぶ。 その淡いオレンジ色の明かりは、かえって夜の静けさと寂しさを感じさせた。 柔らかだが物悲しい明かりに照らされたソファに、ダンテは正面から倒れこんだ。 背中がうずく。 肩口から腰骨まで、脂肪を切り裂くほどの深さで斬られた。 すぐに治るだろうと痛みを放ったまま帰宅したが、どうやら武器に呪いが込められていたらしく、治癒が遅いうえ必要以上に痛い。 「……やられた……」 雑魚とはいえ腐っても悪魔、その武器は魔性のもの。 こんな初歩的な失態を兄が知れば、絶対零度の瞳で見下してくるに違いない。 運がいいのか悪いのか、こんな夜に限って、バージルも依頼のため不在だったのだが。それでも、もしバージルがいたならば、溜息をついて「馬鹿者」と叱りながらも、手当てをしてくれるに違いなかった。 「マスター」 ダンテは大儀そうに視線を上げる。 「アルか…」 水滴が零れるようにきらめきを放つ金色の髪。金色の瞳と視線がかち合った。 「油断したな」 「…ああ」 ぐったりした主の声に軽く鼻を鳴らすと、何を思ったか、どす黒く染まった傷口へ唇を寄せた。 「痛っ!…アル…!?」 驚いて身じろぎするも、それが新たな疼痛をもたらし、ダンテは大人しく突っ伏した。 死神が己の傷に口づけ、黒く呪われた血を吸いだしている。 瘴気にあてられた体液と、それを吸い出す動作のもたらす痛みとは別に、興奮にも似た恐怖が背筋を奔る。 ――――喰われる。 血を吸われ、やがて背骨ごと肉を食いちぎられる。ばかげた幻覚が、鮮明にダンテの脳裏を侵す。 背に触れていた痛みが消えた。顎に細い指がかかり、強引に振り向かされる。 「ダンテ」 毒血に唇を黒く染めて、死神は妖しく微笑む。 「私に食われる、そう思ってるだろう。」 「……ああ」 「今、すごく、お前を食いたいよ…」 微笑む悪魔は瞳の奥まで優しい。 細く白い指が、赤い上着に食い込む。獲物を捕らえる猛禽のそれだった。 金色の帳が視界を覆い、冷たく柔らかい唇が重なる。 途端、口中に広がる、強烈な苦味と粘膜を爛れさせるような痛み。 死神に魅入られるとき、待ち受けるはおぞましい死の口付け。 むせ返って暴れる主人を力で抱きすくめ、毒された呪詛の血を流し込むアラストルは、まさに死の悪魔だった。 end…? |