洋書

□雨の歌
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雨季。
湿った空気が街全体をすっぽりと包み込む。
太陽が雨雲に遮られて、それほど気温は上がらないが湿度は高く、まさに生温いとしか言いようのない環境を形成する。

古びた石造りの、しかも天井の高い「Devil May Cry」は、防湿材と乾燥剤で補強してあるとはいえ、湿気がなかなか逃げない。
肌に触れるもの全てが、どこか重く湿った感じがするのは気のせいではあるまい。
「あー…よく降るな、おい……」
ソファの上で心底うんざりしたようにぼやくダンテ。
テーブルの上には、平らげられたばかりの午後のおやつ・ストロベリーサンデー、その空になったグラス。クリームもシロップも何もかも、生温い気温と湿度に溶けている。
「あと一週間はこんな調子だ」
行く筋も涙を流すガラス窓の向こう、曇ったほの白い外を見つめながら、バージルが小さく呟く。
さすがの彼も、この長雨にはうんざりしていた。

もっとも、バージルの場合、せっかく乾燥させた洗濯物が湿気を吸ってしまうこととか、床が濡れやすくなって掃除の手間が増えるとか、キッチンや浴室のカビの心配をしなければならないとか、煩雑にして実用的な悩みゆえに湿度を憎んでいるのだが。

装飾された鉄の窓枠ごし、雨粒がぱたぱたと軽い音を立てて当たり続ける。

「一週間もこんな天気なんて…カビ生えちまうぜ…」
溜息を一つ、ついて、年代ものの電話を眺める。が、うんともすんとも鳴ろうとしない。

依頼もとんとご無沙汰だ。
せめて体を動かせれば、まだしも気分は晴れようというものだが、この二週間近く、ただの一度も合言葉の依頼はなかった。
悪魔の出現は雨だろうが雪だろうが関係ないはずなのだが。

「来ないときは来ない。諦めろ」
イライラを通り越してぐったりした弟を一瞥すると、こともなげにバージルは言い切る。
「水ぶくれした挙句、干上がっちまいそうだ」
なあ、とダンテが顔を向ければ、兄は小さく嘆息して紅茶のカップに手を伸ばした。
「そんなに暇なら、おかわりでも作るか?」
おかわり、という言葉を、しかもバージルの口から聞いたことで、生気の抜けかけていたダンテの瞳は途端にきらりと輝いた。
「マジ!?作ってくれんの!?」
「違う。暇そうだから自分で体を動かして作れ、という意味だ」
「そういう意味?ま、いいや。バージルの分も作ってやるよ」
「お前はやたらとジャムやシロップを使うから嫌だ」
「違う違う、ちゃんと別の。紅茶のリキュールとラムレーズンのアイスで、無糖のコーヒーゼリーとかさ」
「……いいだろう」
返事を聞くや、やったといわんばかりの笑顔でキッチンへと消えるダンテ。

いつの間にやら自分の好みを把握している弟に呆れつつ、冷めてしまった紅茶のポットを覗き込む。温め直したら、香りは半減してしまう。
さて、どうしたものか。

――鴛鴦茶でも作るか。

ダンテにはカルーアでも入れてやろう、と考えながら、バージルもキッチンの扉を開ける。
のんびりとした二度目のティータイムまで、あともう少し。





お互い、相手の好みはきちんと把握している、というお話。


end


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