目を覚ませば、ワインのように紅い湖の上。 空は重い黒雲に覆われ、しかし、周囲は不気味な薄命の中に息づいている。 折られた円柱や墓碑や、朽木の残骸のような墓標が、折り重なり林立して腐っていく。 堕ちた衝撃に咳き込むが、すぐに異様な重圧を感じ取って顔を上げる。 視線の向こうには、禍々しく蠢く三つの目。 体中の血がざわめく。熱い。歓んでいる。そう、これは喜悦。 「闇の君主と闘うのも悪くあるまい…」 その体を支配するのは圧倒的な好戦欲。勝利も敗北も関係ない。ただ、戦いたい。 「我が父の通った道…俺に通れぬ道理はない!」 抜き身の魔刀が輝く。 その足が魔界の水を蹴り上げた。 二つの力が衝突した刹那。 再び視界は光に閉ざされ、次に見えたのは――――。 目の前で黒い剣を構え、今のダンテが立っている。 (ダンテ!?) 叫ぼうとしたが、声が出ない。 それだけではない。体そのものが動かない。 ダンテの背後の鏡を見て、バージルは愕然とする。 そこに映るのは、漆黒の鎧に身を包み、黒い大剣を手にする禍々しい騎士の姿。 赤く妖しく輝く目は闇に潜む者の証。 黒い騎士が、空いた手を突き出す。 挑発するように振られたそれにあわせ、ダンテが雷撃をまとった強烈なスティンガーで突っ込んでくる。 (ばかな…!やめろ、ダンテ!) 声なき声で叫ぶバージルの意思とは裏腹、赤い剣士と黒い天使は華麗な死の円舞曲を繰り広げる。 だが、一瞬の隙を突かれたダンテが槍を弾き飛ばされ、黒い籠手に喉を締め上げられる。 苦悶に身をよじるダンテの胸元から、光がこぼれた。 (あれは……) 黄昏の光を浴びて輝くそれは、アミュレット。 紅いきらめきが、黒天使の――バージルの視界に炸裂した。 |