洋書

□World Start at Dawn
3ページ/6ページ



触れた瞬間、脳裏に閃光が奔る。

冥河の淵で切り結ぶ赤と青の影。
輝く宝石を握り締めた青い影が、断崖へと立つ。
それに駆け寄る赤い影。そのまま手を伸ばして――掌を切り裂かれ

(あれは、俺たちだ。)

その続きは知っている。
あの赤い影は腕を血塗れにしながら刀をつかみ、悪魔の血を爆発させて俺の腕を握り締めて。
薄れる意識の中で、跳躍する振動とは別に伝わる鼓動、悪魔にはないぬくもり、そして――。

(ああ、泣いていたな、あいつは…)

閉じた瞼に、温かな雫を感じたのを覚えている。

(ダンテ――!?)

だが、眼下の光景は、全く違う結末を見せ付けた。


手を切り裂かれた弟は、あの感情豊かな目を絶望に染めて、硬直した。
拒絶の一線を、ダンテは越えられなかった。
堕ちていく「バージル」を、その青い目に焼き付けて、為すすべもなく佇んでいた。
傷ついた掌を握り締め、残された「力」を手に、呆然と帰途に着く。

その姿を、バージルもまた、呆然と見つめる。
そう、あの時。
あの時、兄を助けられなければ。

(俺の手をつかめなければ、ダンテは――)

ああして涙するしかなかったのだろう。
「雨のせいだ。――悪魔は泣かない」
そう言って。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ