触れた瞬間、脳裏に閃光が奔る。 冥河の淵で切り結ぶ赤と青の影。 輝く宝石を握り締めた青い影が、断崖へと立つ。 それに駆け寄る赤い影。そのまま手を伸ばして――掌を切り裂かれ (あれは、俺たちだ。) その続きは知っている。 あの赤い影は腕を血塗れにしながら刀をつかみ、悪魔の血を爆発させて俺の腕を握り締めて。 薄れる意識の中で、跳躍する振動とは別に伝わる鼓動、悪魔にはないぬくもり、そして――。 (ああ、泣いていたな、あいつは…) 閉じた瞼に、温かな雫を感じたのを覚えている。 (ダンテ――!?) だが、眼下の光景は、全く違う結末を見せ付けた。 手を切り裂かれた弟は、あの感情豊かな目を絶望に染めて、硬直した。 拒絶の一線を、ダンテは越えられなかった。 堕ちていく「バージル」を、その青い目に焼き付けて、為すすべもなく佇んでいた。 傷ついた掌を握り締め、残された「力」を手に、呆然と帰途に着く。 その姿を、バージルもまた、呆然と見つめる。 そう、あの時。 あの時、兄を助けられなければ。 (俺の手をつかめなければ、ダンテは――) ああして涙するしかなかったのだろう。 「雨のせいだ。――悪魔は泣かない」 そう言って。 |