フロアに足を踏み入れた瞬間、ガラスが砕けるような音が四方に響いた。 エレベーターの入り口にも、窓にも、全ての出入り口が、透明な何かに遮られたようにバージルの手を拒む。 「家霊か……ちっ、厄介な…」 地上30階建ての巨大なビルに憑いた悪霊。その体内ともいうべき場所に閉じ込められ、本体が何処にあるのかも判然としない。 バージルは落ち着いて力を収束させ、常に魔人化を保てるよう、魔力で身を覆った。 家霊の動揺が伝わってきた。閉じ込めている存在がとんでもない力の持ち主であり、取り込んでいる今の状態は諸刃の刃であると察知したのだ。 状況は五分五分。このまま優位に持ち込み、脱出する。それだけが生き延びる方法だった。 周囲に幻影剣を放つが、命中する場所は空気が歪んだように変化して、一切の攻撃を受け付けない。 閻魔刀で斬りつけても、壁や物に斬りつけているはずなのに手ごたえ一つ感じられない。これでは、ベオウルフで攻撃しても結果は同じだろう ――――結界か。 周囲を見渡す。一箇所、何か、気配を感じる。目をやれば、斜め後ろの壁が薄く光っている。 よく目を凝らさなければ、月明かりの反射にしか見えないが。確かに、その光は魔を帯び、揺らめいている。 バージルの手が閻魔刀の柄に触れる。 壁に光の筋が奔り、砕け散った。空間をも切り裂く光速の斬撃が切り刻んだのだ。 結界に覆われていた空間の下から、扉が現れる。 迷わず、その扉を開いた。 その頃。 ダンテは炎上する事務所で、手荒な依頼人と対峙していた。 「おいおい…派手にやってくれたな。俺が兄貴にぶん殴られるだろ」 肩をすくめながらも、その瞳は油断なく、目の前の楚々とした――素手でバイクを放り投げてくる――女に銃口を定めている。 だが、女は悪びれもせず立ち上がった。 「わかったわ、ダンテ。依頼は――魔帝ムンドゥスが復活した。これでいいかしら?」 憎むべき忌まわしい名を耳にしたダンテは、だが、別の驚きに目を見張っていた。 「あんた……」 ガラスが割れた写真立ての中で微笑む母と、目の前の女の顔。 「私はトリッシュ。一緒に来てくれるかしら?悪魔狩人ダンテ……」 |