洋書

□World Start at Dawn
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フロアに足を踏み入れた瞬間、ガラスが砕けるような音が四方に響いた。
エレベーターの入り口にも、窓にも、全ての出入り口が、透明な何かに遮られたようにバージルの手を拒む。

「家霊か……ちっ、厄介な…」

地上30階建ての巨大なビルに憑いた悪霊。その体内ともいうべき場所に閉じ込められ、本体が何処にあるのかも判然としない。
バージルは落ち着いて力を収束させ、常に魔人化を保てるよう、魔力で身を覆った。
家霊の動揺が伝わってきた。閉じ込めている存在がとんでもない力の持ち主であり、取り込んでいる今の状態は諸刃の刃であると察知したのだ。
状況は五分五分。このまま優位に持ち込み、脱出する。それだけが生き延びる方法だった。

周囲に幻影剣を放つが、命中する場所は空気が歪んだように変化して、一切の攻撃を受け付けない。
閻魔刀で斬りつけても、壁や物に斬りつけているはずなのに手ごたえ一つ感じられない。これでは、ベオウルフで攻撃しても結果は同じだろう

――――結界か。

周囲を見渡す。一箇所、何か、気配を感じる。目をやれば、斜め後ろの壁が薄く光っている。
よく目を凝らさなければ、月明かりの反射にしか見えないが。確かに、その光は魔を帯び、揺らめいている。
バージルの手が閻魔刀の柄に触れる。
壁に光の筋が奔り、砕け散った。空間をも切り裂く光速の斬撃が切り刻んだのだ。
結界に覆われていた空間の下から、扉が現れる。
迷わず、その扉を開いた。





その頃。
ダンテは炎上する事務所で、手荒な依頼人と対峙していた。
「おいおい…派手にやってくれたな。俺が兄貴にぶん殴られるだろ」
肩をすくめながらも、その瞳は油断なく、目の前の楚々とした――素手でバイクを放り投げてくる――女に銃口を定めている。
だが、女は悪びれもせず立ち上がった。

「わかったわ、ダンテ。依頼は――魔帝ムンドゥスが復活した。これでいいかしら?」

憎むべき忌まわしい名を耳にしたダンテは、だが、別の驚きに目を見張っていた。

「あんた……」

ガラスが割れた写真立ての中で微笑む母と、目の前の女の顔。

「私はトリッシュ。一緒に来てくれるかしら?悪魔狩人ダンテ……」




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