長い雨が止んだ後は、急にすっきりと晴れた夜が続いた。 生活が大気そのものとして沈澱しているスラム街でも、少々古風な窓のガラスを通して外界を見れば、申し分ない美しさの月と闇が広がっていた。 「バージル…?」 外の闇を見つめていたバージルが、夜から弟へと視線を移す。 鋼の窓格子と、青白い月のベールをかづいた闇が、バージルの白い輪郭を浮かび上がらせた。 彼には、月がよく似合う。 まるで彼が冥き世界の住人であると示すかのように。 刹那の美しさと寂漠を脳裏に焼き付けたダンテは、ぎこちない笑顔で肩をすくめてみせた。 「世の中平和だねぇ、お兄様?」 何かと思えばそんなことを言われ、バージルは怪訝な顔をした。 「どうした」 デスクに歩み寄ってくるバージルから、夜と月の気配が薄れていく。 闇が背に、足に、手を伸ばしても、バージルは何ら気にもせず歩みを進めて弟の正面に立つ。 そんなイメージに1人で満足しつつ 「あんたって月の精霊みたいだな」 ダンテはいつもの調子を取り戻していた。 |