部屋を出るとすぐ、コーヒーのよい香りがした。キッチンの灯りはすでに消えているが、香ばしい匂いと暖かさが残る。 事務所の扉を開けると、それはいっそう暖かくバージルを出迎えた。 「お、バージル。起きたのか」 フレンチトーストとスコーンの乗った皿を抱えたダンテが、笑って出迎えた。 「何か腹に入れてけよ。体も温まる」 「ああ」 2人分のコーヒーカップから湯を陶製の器に捨て、手際よくコーヒーを注ぐ。 バージルにはブラックのまま、自分のにはたっぷりミルクと砂糖を入れる。 椅子に腰掛けながら、バージルは皿に盛られた菓子を取り分けた。 「なかなか良く出来てるな」 素直に感心すると、コーヒーを並べるダンテは嬉しそうに笑った。 「だろ?あんたに教わった通り作ってみたからな」 言外にバージルの腕前を称賛しつつ、スコーンを口に放り込んだ。 予想外の熱さに目を白黒させるダンテに微苦笑しつつ、バージルはコーヒーを口にする。 ほどよく蒸らされた風味が旨い。ダンテの淹れるコーヒーは玄人はだしだ。 暖かい夜食と他愛ない会話が、仕事前の神経を程よく宥めてくれる。 |