洋書

□※過去―Side Dante―
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建物の配置すら不明瞭な焼け跡。
何もかも無くなってしまった。
ダンテの目は、呆然と瓦礫を映していた。


「バージル」


呟いた言葉が、ダンテを一気に現実へと引き戻した。
そうだ、兄はどうしただろう。
助かっているかもしれない。少なくとも、まだ帰路についてはいないはずだ。

――家へ帰っては危険だと知らせなければ。

ダンテの瞳に光が戻った。
それが、不安と紙一重の衝動的な勇気だったとしても。
彼の中に力が戻ってきた。



駆け出そうとしたとき、周囲の地面がえぐれ、何かが噴出した
砂だ。
それも、生臭いような、不快な臭いのする砂。
呻き声とともに、腐敗したぼろきれがぼこぼこと生えてきた。骨にしなびた皮膚をくっつけて。
いびつに歪んだ目が、真っ赤に光っている。

――悪魔…!

ダンテの体は反射的に動いた。


悪魔が鎌を振り上げる。
ダンテはそれを受け身を取りつつ、かわす。
避けたところへ、今度は二つ同時の刃が襲う。
ひゅっ、と鋭く息を吸い、ぎりぎり引き付けて動きを見切る。
大きく跳躍して逃げた、その背後。
勢いよく砂が降り懸かってきた。
「っ!?」
振り返った先には、巨大な杖を振り上げた悪魔。
その呻き声に空気がたわみ、次の瞬間には衝撃波がダンテの足元を直撃した。
吹き飛ばされながらも着地したのはさすがと言うべきか。
だが、体勢を整える暇は与えられなかった。
目の前と背後を詰められた。
バランスを崩した隙を悪魔の刃が薙ぐ。
倒れかける体は、無防備な首筋を刃の軌道上に曝す。

首を吻ねられては、半魔といえど助かることはできない。

見開かれた青い目に刃の切っ先が映った。

だが、それは白いうなじを汚すことはできなかった。
砂の粒子と変じて、目の前で消し飛んだのだ。


悪魔たちが次々と崩れさっていく。



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