生まれた命が愛される。 生まれた命を慈しむ。 その基が遥か古代に芽生えたとしても、彼は決して忘れなかった。 そして、二千年の時を経て、人を伴侶とし、父親となることを選んだ。 「レディ、お前はどうして、今ここに存在している?」 質問の意図がよくわからず、レディは瞬いた。 バージルは、レディの足を指し示した。 「もし、巫女が“犠牲”となったのだとしたら、お前もテメンニグルで“犠牲”にされたはずだ」 「そう、いえば…」 そこで、はたとレディは己の大腿に手を当てた。 「そうよね…、あの時…私は生きていて、だけど封印は解けて…」 左の大腿には、ダンテの手当の正確さもあって、なんの傷跡もない。動脈を刺し貫く重傷だったが、しかし、命までは奪われなかった。 今まで“犠牲”の意味を気に留めなかった。 だが、よく考えてみれば、巫女を“犠牲”にして血を捧げたというのなら、レディはあの塔の最深部で血祭りに上げられていただろう。 「そうだ。俺たちの血も、巫女の血も、僅かでよかった。それに――」 ふと、バージルは口をつぐむ。 氷のように冷たく気高い瞳が、一瞬、穏やかな色に染まったのは気のせいだろうか 「穢れなき巫女――全ての穢れを知らぬまま犠牲になった女が子孫など残せるか?」 「あ…!」 「そういうことだ」 人類を守る盾、その一部を捧げた穢れなき巫女。 「その巫女が、結婚して、母親になった。だから、レディがいる。そういうことだろ?」 な、と褒めてもらいたそうに見る弟へ、困ったような笑顔を見せてバージルは頷く。 |