“さあ、今日はクリスマスだ あんたに希望があらんことを 近しい人や大切な人へ、老いも若きも” この真冬の夜空へ引っぱり出されたと思ったら、いきなり抱きかかえられ教会の尖塔の上へ。 今、眼下には、黒いビロードの上に宝石箱をひっくり返したような、見たこともない街が横たわっている。 たとえ、そこが汚濁であっても、宝石のようなきらめきを映す夜がある。 周囲のあらゆる者から疎まれながらも、持てるだけの財をかき集め、偉大なる唯ひとり人の足を清めた、罪深くも聖なる女のように。 “今日は幸せなクリスマス 弱くても強くても 金持ちでも貧乏でも 世の中そんなに悪かない” 身を切るような冷たい風の中で、街はますますくっきりと輝いている。 そこに見える瓊珠が、下に深々と罪の汚泥を沈めていたとしても――そこにも確かに、何かの光を映しているに違いない。 じっと、街を見つめている彼の隣では、弟が陽気に歌を口ずさんでいる。 実に、楽しそうに。 “だって今日はめでたいクリスマス あんたに良い年が来ますように! またひとつ、いいことがあるといいよな 心配するなって” 「楽しそうだな」 静かな言葉に、うきうきとした小さな歌声が、止まった。 「楽しいさ」 こちらを向く弟の顔は、余裕と満足そうな笑顔に満ちている。 「あんたと二人っきりのクリスマスだ」 おまけに、と、大きな手が肩を抱く。 その力は、がっしりと温かい。 「あんたと、この景色を二人占めだ」 どうだと言わんばかりの表情は、それこそ子供のときから変わらない。 二人っきりの秘密を作りたがる。 他愛ない、小さな小さな、けれど、この世でたった二人しか知らない秘密を。 「まったく、お前は――」 小さく笑いをもらす兄の横顔を見て、よく笑うようになったと、弟はまたほんの少し嬉しくなる。 これは、彼だけの秘密だ。 「ここは悪くない」 「だろ?」 彼らの立つ神の家から、華やかな歌声が響いてくる。 しんしんと静まる冬の聖夜に。 “そう、今日はすばらしいクリスマス! そして良いお年を! 少しずつ、よくなっていくさ 心配いらないよ” 25/12/2011 |