「Devil May Cry…」 幾分か不機嫌そうな声が応対する。 朝一の時刻、普段なら“朝っぱらから面倒”の一言で無視を決め込むことに比べれば奇跡。 仲介屋や悪友たちが目撃すれば、すわ雷雨の前兆かと、大急ぎで空を見上げるところだ。 「用件を聞こうか」 幸いというか生憎というか、その殊勝な気まぐれを目にしているのは、店主を除けば一人だけ。 「失せ物探し?……おいおい、イカさねぇ依頼――」 いつもの癖を出しかけるダンテの後頭部に、ぴしりと極小の一点が突きつけられた。 途端、今まで弛緩しきっていた背中がぴんと伸び、実にビジネスライクな姿に変わる。 「………あ…いや……構わない…何とか都合はつく…。ああ、わかった……時刻は……オーケイ、それじゃ、確かに」 ぎくしゃくとメモを取っているが、なんとか無事に予定は立った模様。 チン、と受話器を置いた瞬間、後頭部ぎりぎりに突きつけられていた幻影剣が、パリン、と澄んだ音を立てて砕け散った。 「無事に済みました」 「当然だ」 腕を組んで仁王立ちするバージルの眉間には、常以上に深々と絶壁の渓谷が刻まれている。 絶対零度の瞳が時折赤い色を閃かせているのは、気のせいだと思いたかった。 「貴様、今の俺たちに仕事をえり好みする自由は無いと理解できているか…?」 「で、できて…る…」 「俺たちの負っている賠償金は?」 「…80万ドル…」 「原因は…?」 「俺が、絶対に破壊しないと契約していた登録文化財の邸宅のホールを、めちゃくちゃにしたから…です…」 「その通り。挙句、現在に至るという現実を認識しているか…?」 「してるよ!だからこうしてアポ取ったじゃねえか!」 「ほう……」 「あっ…」 はっとダンテが気付いたときには、怒りのあまり真紅に瞳を燃え上がらせた黒天使が、豪雨のごとき幻影剣を炸裂させていた。 扉の向こうから聞こえる悲鳴に、事務所の前にたどり着いたトリッシュとレディは顔を見合わせた。 「帰ったほうがよさそうね」 「同感」 賠償を完済する前に、魔界の淵を覗くことになるような錯覚を覚える、ダンテの今日この頃だった。 |