「元……帰命侯は、どのような評価をすべきだと思う」 天下の賢人、幽冥に片足を突っ込んでいる宰相へ聞いてみた。 間の悪いことに、きわめて事務的に聞こうとして、しくじった。 案の定、張華は冷めた目で、 「それは、彼の君主としての評価、でよろしいのですかな」 と、わざとらしく念押ししてくる。 自分は妙な事件に首を突っ込むのが好きなくせに、皇帝の私事には生真面目に官僚として対応しようとするのだ、この男は。 「茂先、朕は――」 「どうしようもない暴君でございますよ」 先制するような厳しい言葉に、司馬炎は思わず、沈黙した。 「国を保とうとする意思がないどころか、滅ぼそうと願っている君主の、どこを誉めろと仰るのですか」 図星だった。 「……あれは、哀れな男だ。聡明すぎた、君主としての資質を備えすぎたのだ」 「それで?」 「わからぬのか」 司馬炎は腹を立てた。 「元宗が血に憑かれたとすれば、それは呉への憎しみゆえだ。無辜の父を死に追いやり、あまつさえ口をぬぐって玉座へ祭り上げるような、恥を知らぬ国に愛想が尽きたのだ。それで気を病み、心を荒ませたとて、どうして彼を責められようか。現に、見ろ、降ってからの彼は本当に思慮深い、名君ではないか」 「彼が英気にあふれ優れた資質だということと、君主として行った事柄は、関係ございません」 近頃、関心を示しているらしい私編の史書を、皇帝の目の前に積み上げた。 「君主の評価とは、ただ、その治世において、天子に求められた事柄をいかにして報いたか――それだけが基準にございますれば」 それに代わる情けなど無用、むしろ、正当な評価を歪める悪弊にすぎない。 何か言いかけて、司馬炎は口をつぐんだ。 唇が震えている。 言葉を発すれば、何を言い出すか自分でもわからない。 白い額に青筋を浮かべ、こちらを睨み据える皇帝に、臆しもせず張華は続ける。 「歴史とは非情なものにございます、陛下」 ゆえに、と、静かに諭した。 「陛下の望まれるお言葉を、某は差し上げられませぬ。…お許しあれ」 |