今宵は珍しく、“主”の機嫌は悪かった。 悪い、というより、どこか憮然としていた。 沈んだ表情のまま、何かを押し隠すかのように、執拗に孫皓の体を抱いた。 じっとりと責め抜くような愛撫に体は悲鳴を上げるが、思考はどこか戸惑い、冴えていた。 「どうした…?」 ろくに果てもせず、荒い息を吐いて起き上がる司馬炎を、孫皓はさすがにいぶかった。 といっても、自身はぐったりと夜具にくるまっていて、身動きするのも億劫なのだが。 長い髪をばさりとかき上げた―普段とまったく違う荒々しさで―司馬炎は、しかし、苛々と首を振った。 「なんでもない」 嘘をつけ、と思った。 が、そこで食い下がるほど、孫皓は情熱的ではない。 「そうか」 淡々と答えて目を閉じる。 ――帰命侯…。 痩せぎすの愛人を見つめていた司馬炎は、複雑そうにそっぽをむいた。 ――お前、呉で何をしていた…? |