書架

□天稟の子
1ページ/4ページ




今宵は珍しく、“主”の機嫌は悪かった。
悪い、というより、どこか憮然としていた。
沈んだ表情のまま、何かを押し隠すかのように、執拗に孫皓の体を抱いた。
じっとりと責め抜くような愛撫に体は悲鳴を上げるが、思考はどこか戸惑い、冴えていた。

「どうした…?」
ろくに果てもせず、荒い息を吐いて起き上がる司馬炎を、孫皓はさすがにいぶかった。
といっても、自身はぐったりと夜具にくるまっていて、身動きするのも億劫なのだが。
長い髪をばさりとかき上げた―普段とまったく違う荒々しさで―司馬炎は、しかし、苛々と首を振った。
「なんでもない」
嘘をつけ、と思った。
が、そこで食い下がるほど、孫皓は情熱的ではない。
「そうか」
淡々と答えて目を閉じる。

――帰命侯…。

痩せぎすの愛人を見つめていた司馬炎は、複雑そうにそっぽをむいた。

――お前、呉で何をしていた…?




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ