「知っているか…?」 からかうような口調とは裏腹に、ほの暗い微笑が凄絶に悩ましい。 「狄卑め、こんなことを言っているそうだ――遼東を圧し、中原への道を得たあかつきには――」 「元仲様…」 聞きたくないとばかり、唇をふさごうとする司馬師の頭を避け、耳元へ囁いてやる。 「天子を擒とし、枕席に侍らせてくれよう、とな…」 ひくりと震える感覚が、まわした腕にも伝わってきた。 「ほう…」 予想通り、冷え切った声が落ちてきた。 身を起こした司馬師の視界に、試すような微笑を投げかける曹叡が映った。 「その不遜な口に、罰を与えなくてはなりますまい…」 荒々しい愛撫、嫉妬に狂った呼吸。 熱い快感に喘ぎながらも、歪んだ微笑を禁じえない。 「…は、っ……何を、だ…?」 白々しく嘲笑えば、痛みにも似た熱が背を走る。 「ぅあ…っ…」 突き刺した後を抉るように深々と押しやれば、苦痛まじりの快楽の喘ぎと共に、白い背中が仰け反る。 「っあ…はぁ、っ……おまえ…お前は…どうなのだ…っ!」 髪の毛をつかまれ、上気した美しい顔が目の前に近づく。 「決まっております」 噛み付くような口づけを柔らかくついばみながら、司馬師は虚空を睨んだ。 「殺す…!」 首筋を吸われる痛みに暗い充足を覚えながら、曹叡はうっすらと微笑む。 野望の業火をかいなに抱き、誘蛾のようにすがりながら、冷たい糸で絡め取る。 あやかしの笑みだった。 ――彼は、もう私から逃げない。 そして、自分も彼から逃げない。 腕の下に抱かれた最愛の情人が、同じことを思い、同じ微笑を浮かべていると、知っているのだろうか。 どちらのものとも知れぬ体液で濡れた指が、血なまぐさく乾いた文章をつづる。 身の程を知らぬ蛮族の首を獲るように、との勅書が、情事の延長のようにしたためられたのは、一時ほど後のことだった。 すべては天蓋の遊戯の中。 |