書架

□嘲笑の臥所
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「知っているか…?」
からかうような口調とは裏腹に、ほの暗い微笑が凄絶に悩ましい。
「狄卑め、こんなことを言っているそうだ――遼東を圧し、中原への道を得たあかつきには――」
「元仲様…」
聞きたくないとばかり、唇をふさごうとする司馬師の頭を避け、耳元へ囁いてやる。
「天子を擒とし、枕席に侍らせてくれよう、とな…」
ひくりと震える感覚が、まわした腕にも伝わってきた。
「ほう…」
予想通り、冷え切った声が落ちてきた。
身を起こした司馬師の視界に、試すような微笑を投げかける曹叡が映った。
「その不遜な口に、罰を与えなくてはなりますまい…」
荒々しい愛撫、嫉妬に狂った呼吸。
熱い快感に喘ぎながらも、歪んだ微笑を禁じえない。
「…は、っ……何を、だ…?」
白々しく嘲笑えば、痛みにも似た熱が背を走る。
「ぅあ…っ…」
突き刺した後を抉るように深々と押しやれば、苦痛まじりの快楽の喘ぎと共に、白い背中が仰け反る。
「っあ…はぁ、っ……おまえ…お前は…どうなのだ…っ!」
髪の毛をつかまれ、上気した美しい顔が目の前に近づく。
「決まっております」
噛み付くような口づけを柔らかくついばみながら、司馬師は虚空を睨んだ。
「殺す…!」
首筋を吸われる痛みに暗い充足を覚えながら、曹叡はうっすらと微笑む。
野望の業火をかいなに抱き、誘蛾のようにすがりながら、冷たい糸で絡め取る。
あやかしの笑みだった。

――彼は、もう私から逃げない。

そして、自分も彼から逃げない。
腕の下に抱かれた最愛の情人が、同じことを思い、同じ微笑を浮かべていると、知っているのだろうか。





どちらのものとも知れぬ体液で濡れた指が、血なまぐさく乾いた文章をつづる。
身の程を知らぬ蛮族の首を獲るように、との勅書が、情事の延長のようにしたためられたのは、一時ほど後のことだった。
すべては天蓋の遊戯の中。



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