「叡」 「はい」 「健やかにしているか」 「はい」 「ここしばらく、会うことも叶わなんだな。許せよ」 「畏れ多いことです。あなたは一天万乗の帝、子に許せなどと仰いますな」 静かに、幾分かゆっくりと受け応える息子に、しかし、曹丕は何ともいえぬ切なげな表情になる。 「叡」 「は…」 「お前も、私に心を語ろうとはしないのか…?」 どこか苦しげな父の声に、曹叡はほんのわずか、眉をひそめた。 「心、でございますか…」 日頃表情に乏しい曹叡が、珍しく、困惑したような顔になる。 表情が浮かべば、整いすぎた美貌に年相応の華やぎをもたらすというのに。 その僅かな変化すらいとおしげに、曹丕はつと、我が子の頬へと指を伸ばした。 「父上…」 「お前は宓に似ている」 曹叡の目が、かすかに見開いた。 「本当によく似ている……私に触れられると、いつも驚いたような顔になった…今のお前のようにな…」 だとすれば、母も自分と同じような気持ちだったのだろうか。 この茫漠たる寂寥感。 目の前にいる人は、確かに己と最も近しい人であるのに、決して近しくなることができないのだ。 時として向けられる何気ない愛情に驚くとは、つまり、そういうことなのだろうと思う。 「母の心が…少し、解ります」 「そうか…」 「何故でしょう」 こんなにも近い間柄なのに、こんなにも遠い隔たりが横たわるのは。 すると父は、曹叡の内心を引き取って、すぐに言い表してくれた。 「…寂しい、というのだろうか…」 「寂しい…」 曹丕の手が、曹叡の髪をやわらかくすき撫でる。 「この世には、そんな間柄もあるのだろうかな」 |