時々、思う。 天は何のため、己に生を授けたのだろうと。 このまま、弱い光の差し込む一室で生涯を終えるためだけに、生まれたのだろうかと。 夭夭如也 その子は、日の温む午後、いつも内院の軒下に現われた。 そうして、こちらが書を広げる様子や、物を書く様を、じいっと見つめてくる。 構ってほしいのかと思い、手招いたが、そうすると途端、怯えたように肩を震わせ、柱の影へと引っ込んでしまう。 ――大人が怖いのかな。 だから、なるべく怖がらせないよう、つとめて、読書に集中することにした。 すると、その子は再び、こちらを興味深そうに見つめるのだった。 そんな不思議な距離を保ち続けた、ある日。 いつものように、書を開いていると、その子はいつもと同じように、こちらを伺っていた。 笑いかけてやると、やはり、ちょっと驚いたような顔をするが、おずおずとこちらを見つめ返してきた。 ――こっちに、来てくれないかな。 そう思ったとき。 「子エどの」 横合いから、ぴしゃりと扉が閉められ、その子の姿は遮られた。 蔑むような眼差しで窓のほうを――あの子のいる方向を――見下していた母が、こちらを振り返る。 「嫡男ともあろう人が、庶子と親しくしてはなりません」 その言い方に、曹鑠は、胸がずきりと痛むのを感じた。 聡明で尊敬すべき母が、こと奥向きについては狭量な振る舞いをすることが、曹鑠には悲しかった。 「母上、幼子は自由に遊び歩くもの、そのようにお咎めにならずとも――」 「いけません。家内にも秩序があります、あなたは曹家の嫡子なのですよ?」 「……わかりました…」 母が出て行った後、曹鑠はそっと、扉を開けてみた。 すでに、あの子の姿はない。 とても、寂しく、悲しい気持ちだった。 それから三日間、雨の日が続いた。 しとしと濡れる軒には、誰もやってこなかった。 |