「ほほほほ、おかしいんですよ、私が「いやだ」と言ったときの、あの子達の顔ったら!」 わざと華やいだ笑声を上げれば、御簾越しに控える彼が、困ったような微笑を浮かべるのがわかった。 といっても、それはお転婆な娘を見つけたときのような「困った」なのだが。 「あなた様が、あそこであのように仰るとは、私も予想しておりませんでした」 そう司馬孚が言えば、太后は困惑したような顔になる。 「よく考えたら、若い高貴郷公にあの甥っ子たちの相手は無理ですね…やっぱり、燕王にすべきだったかしら…」 「いや、これは……」 司馬孚は少し微笑したが、すぐに目を伏せ、沈んだ面持ちになった。 「お恥ずかしながら、臣には甥たちを止めるほどの力はございませぬ」 「いいんですよ。それは私も…いいえ、次の陛下だって一緒です。私は、ほんのちょっと、死に際を延ばしただけですよ」 「太后さま…」 「ほんと、なんだってあんな無謀ができたのかしらねえ…」 相変わらず笑声まじりの呟きだが、不意に語尾がかすれた。 「太后さま…!?」 気分でも悪くなったかと慌てて立ち上がりかけた司馬孚へ、皇太后は手を振る。 「いえ…大丈夫ですよ、太傅どの、大丈夫…」 それは明らかに涙声だった。 「あら、いやだ…全然、泣きたくなんてないのに…」 年かしらね、と、呟くと、立ち上がった。 「ごめんなさい、太傅どの。私、今日はもう休みます」 「はい」 先ほどまでの、あの華やかなほどの明るい声は、もう、どこにもない。 華やいだ余韻ばかり残る、寂しそうな声だった。 「予想外でした…あの皇太后が反対するとは…」 「まったくだ。彼女を見くびり過ぎていたかな」 百官が居並ぶ朝廷において、皇太后がはっきりと拒絶を示した以上、強いて奏上することはできない。 そんなことをすれば、政敵の多い彼自身の命取りとなる。 しかも、皇太后の理由は筋が通っており、反論の余地がない。 「辛抱するしかあるまい」 「それも数年です」 「そうだな」 →あとがき |