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□阿嬌一笑
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「ほほほほ、おかしいんですよ、私が「いやだ」と言ったときの、あの子達の顔ったら!」

わざと華やいだ笑声を上げれば、御簾越しに控える彼が、困ったような微笑を浮かべるのがわかった。
といっても、それはお転婆な娘を見つけたときのような「困った」なのだが。
「あなた様が、あそこであのように仰るとは、私も予想しておりませんでした」
そう司馬孚が言えば、太后は困惑したような顔になる。
「よく考えたら、若い高貴郷公にあの甥っ子たちの相手は無理ですね…やっぱり、燕王にすべきだったかしら…」
「いや、これは……」
司馬孚は少し微笑したが、すぐに目を伏せ、沈んだ面持ちになった。
「お恥ずかしながら、臣には甥たちを止めるほどの力はございませぬ」
「いいんですよ。それは私も…いいえ、次の陛下だって一緒です。私は、ほんのちょっと、死に際を延ばしただけですよ」
「太后さま…」
「ほんと、なんだってあんな無謀ができたのかしらねえ…」
相変わらず笑声まじりの呟きだが、不意に語尾がかすれた。
「太后さま…!?」
気分でも悪くなったかと慌てて立ち上がりかけた司馬孚へ、皇太后は手を振る。
「いえ…大丈夫ですよ、太傅どの、大丈夫…」
それは明らかに涙声だった。
「あら、いやだ…全然、泣きたくなんてないのに…」
年かしらね、と、呟くと、立ち上がった。
「ごめんなさい、太傅どの。私、今日はもう休みます」
「はい」
先ほどまでの、あの華やかなほどの明るい声は、もう、どこにもない。
華やいだ余韻ばかり残る、寂しそうな声だった。








「予想外でした…あの皇太后が反対するとは…」
「まったくだ。彼女を見くびり過ぎていたかな」
百官が居並ぶ朝廷において、皇太后がはっきりと拒絶を示した以上、強いて奏上することはできない。
そんなことをすれば、政敵の多い彼自身の命取りとなる。
しかも、皇太后の理由は筋が通っており、反論の余地がない。
「辛抱するしかあるまい」
「それも数年です」
「そうだな」




→あとがき

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