書架

□黄昏
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私が死んだ後、我が家はどうなるのだろうか。

そう、考えることが増えた。
近い未来を見れば、やがて子孫たちが帝位を享けるであろうことは明白。
だが、その後は?
引き絞られた弦は、いつかは断ち切れるもの。
張り詰められた力が強ければ強いほど、反動は大きくなる。

戦乱の果ての政争、そこで多くの血を流し、世は虚無に憧れている。
こんな世を作り上げた自分たちを、天意が赦すものであろうか。
天意など、わずかに畏敬の念を抱くだけに過ぎなかった言葉。
それが、今はこんなにも心にわだかまる。
魏の基盤を食い尽くしかねない者たちを除いたことに関して、罪悪感は全くない。
だが、ああして一族全てを血祭りに上げることを命じたのは。
そのときは当然だと思っていたが、後になってみれば、さすがに気持ちのいいものではなかった。

――害になる臣下を除いたことは評価する。だが、族滅したのは、いったいどなたのためでしょうね。

後日、蜀の使者が携えてきた密書には、そう書かれていた。


そういえば亡き主君も、一時の激情で刑を言い渡しては、必ず後で悔やんでいた。
死の間際、些細なことで癇に障った男を投獄し、司馬懿たちの嘆願に苛立って即刻処刑させた。

――後で悔やまれるのは、子桓様なのですよ!

数年ぶりに激昂した司馬懿の訴えは、同じく激情の持ち主である曹丕とぶつかり合うばかりで。
あの時は、どうして有終を美しくしないのか、と悲しんだものだが。


なんのことはない、自分のほうが、よほど穢れたまま逝くではないか。
目を閉じた司馬懿の脳裏に、拘禁された楚公子・曹嘉の言葉がよぎった。

――私は、今まで一度たりとも、皇室を親愛したことはない。

―― だが、それでも――司馬仲達、あなたのしたことは許さない。



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