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□背影夢幽
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ふと、目を覚ました。
室内の闇も、今は蒼く薄まり始めている。
隣の規則正しい寝息に視線をやれば、青みがかって見えるほどの美しい黒髪を持つ、愛しい情人の寝顔。
その端正な唇が、しなやかな指が、昨夜どれほど自分を高め、追い詰め、悦ばせたか。
己の体に散る花弁を思い起こし、身の内へ羞じらいにも似た熱が熾る。
熱情はとどまるところを知らず、しかし、撫抱する手には限りなく深い愛情が込められていて。
自分でも、その優しさに流されるのを感じた。
愛しい者の寝顔を見つめながら、ぼんやりとそう考えていたとき。
当の恋人が身じろいだ。
目を覚ますのかと思ったが、己の顔に掛かる髪を煩そうに掻き上げただけだった。
髪を払うことであらわになる、青白い左頬の鬱血したような痕。それを嫌って、いつも眼帯を手放そうとしない。

――隠さずとも、お前は倩しいのに、な……。

そう胸中で独りごちると、一糸まとわぬまま寐台を降りる。
驚くほど長い黒髪が、瑕疵一つない玉膚を覆い尽くすように流れた。
晩春とはいえ、明け染める前の夜気は、やはりどこか肌寒い。
それでも、睦みあった名残の熱を感じる体には、ちょうどよかった。

「元仲様」

振り返れば、いつの間に目を覚ましたのか、情人が身を起こしていた。
勁く引き締まり、しなやかな筋肉の付いた、武人らしい体つきをしている。
「悪い夢は、ご覧になりませんでしたか」
その言葉に、曹叡はくすりと微笑して頷く。
寤台の上でくつろいだ微笑を浮かべる情人へ近づくと、その左頬へ軽く口付けを落とした。
「元仲様……」
「よいだろう?」

――お前の全てを見られるのは私だけ

微笑むかんばせに、満たされるものを感じつつ目を閉じれば。
ふたたび左頬に落ちる、優しく温かな口付け。
「お前は私のもの」
「御意」
目を開けて、そっと抱き寄せれば、黒髪が帳のように二人を覆う。
唇を重ね、互いがそこに在ることを確かめる。

せめて、もう少し。
もう少しだけ。
こうしてあなたを感じさせていて。





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