たとえば、彼の何が愛おしいのかと考えてみる。 真っ先に思い浮かぶのは、鋭敏で意志の強い、毅然とした挙措だ。 だが、どんなに強い態度であっても、不思議と典雅さが伴っている。そんなところが、とても好ましく感じる。 一言で表すなら、介立不遜。 勁く、誇り高い。 見ていてとても美しいと感じるが、他者には近づきがたく映ろう。 だが、それでいい。 子元はかくあるべきだ、と思う。 ならば、弱いと思うところは。 “弱い”という言葉は、彼に最も似つかわしくない気もする。 単純に弱点というなら、桃符と子上か。まあ、子上は滅多なことで危地に陥ることはないだろうから、弱点には当分、成り得ない。 では、嫌いなところは。 「嫌いではないが……」 時折、異常に過保護なところは苦笑させられる。 だが、嫌いではない。 「嫌いでは、ない…うん…」 確かめるように口へ上せてから、なぜか頬が熱くなる。 若い娘のような他愛ない戯言だ。 嫌いなところなどない、とは。 彼を裏切ることはしないし、できそうにない。 彼にも自分だけを愛し続けてほしい。 他愛ないといえば、こんな願いも抱いてしまったりする。 二人きりになったなら、ただ抱きしめてもらうだけで、安心できる。 自分にとって無二の存在、最愛の人。 彼に愛されていれば、それでいいと思えるほどに。 できうる限りのことは全てしてやりたいし、言ってほしいとは思う。 だが、現実には自分のほうが頼ってしまうことが多くて。 彼の抱え込んでしまう物事を、少しでも分かち合うことができれば、とは、常々思うことなのだが。 できれば、この国を、といいたいところだが――あの暗く激しい憎しみは、自分への愛情と対を成すもの。 今更、何をすることもできない。 子元が、唯一自分のみを愛してくれる。そのことだけでも、喜ぶべきだろう。 ただ――彼のそんな情念が、激情に支配された愛情が、ただ自分のためだけに存在する感情だという事実が、たまらなく嬉しいのも、確かだ。 彼が裏切ることなどあるのだろうか。 もっとも、彼が裏切るということは、自分を幽して簒奪するか、あるいは弑するか、いずれかしかないのだけれど。 そうなったなら、自分の手で殺してやろうと決めている。 (子元は、私の後を追ってくれるだろうか?) それでも、相手をどれくらい信頼しているかといえば、それは一言に尽きる。 床を共にするくらい、と。 それぐらい、子元は自分のことを好いているという確信がある。 “私が愛しているのは貴方であって、魏朝ではない” そう、目の前で言い切る男だ。 たとえ死期が逼ったとしても、きっと自分は何事でも望みをかなえたいと思うだろう。 何事も、子元が望むままに――と。 ずっと一緒にいたいかと問われれば、もちろんだ。 ただ、相手に伝えたいことだけは、二人きりで言うものだと、彼は思っている。 |