書架

□告白
1ページ/1ページ




たとえば、彼の何が愛おしいのかと考えてみる。

真っ先に思い浮かぶのは、鋭敏で意志の強い、毅然とした挙措だ。
だが、どんなに強い態度であっても、不思議と典雅さが伴っている。そんなところが、とても好ましく感じる。
一言で表すなら、介立不遜。
勁く、誇り高い。
見ていてとても美しいと感じるが、他者には近づきがたく映ろう。
だが、それでいい。
子元はかくあるべきだ、と思う。

ならば、弱いと思うところは。
“弱い”という言葉は、彼に最も似つかわしくない気もする。
単純に弱点というなら、桃符と子上か。まあ、子上は滅多なことで危地に陥ることはないだろうから、弱点には当分、成り得ない。

では、嫌いなところは。
「嫌いではないが……」
時折、異常に過保護なところは苦笑させられる。
だが、嫌いではない。
「嫌いでは、ない…うん…」
確かめるように口へ上せてから、なぜか頬が熱くなる。
若い娘のような他愛ない戯言だ。
嫌いなところなどない、とは。

彼を裏切ることはしないし、できそうにない。
彼にも自分だけを愛し続けてほしい。
他愛ないといえば、こんな願いも抱いてしまったりする。

二人きりになったなら、ただ抱きしめてもらうだけで、安心できる。
自分にとって無二の存在、最愛の人。
彼に愛されていれば、それでいいと思えるほどに。
できうる限りのことは全てしてやりたいし、言ってほしいとは思う。
だが、現実には自分のほうが頼ってしまうことが多くて。
彼の抱え込んでしまう物事を、少しでも分かち合うことができれば、とは、常々思うことなのだが。

できれば、この国を、といいたいところだが――あの暗く激しい憎しみは、自分への愛情と対を成すもの。
今更、何をすることもできない。
子元が、唯一自分のみを愛してくれる。そのことだけでも、喜ぶべきだろう。
ただ――彼のそんな情念が、激情に支配された愛情が、ただ自分のためだけに存在する感情だという事実が、たまらなく嬉しいのも、確かだ。

彼が裏切ることなどあるのだろうか。
もっとも、彼が裏切るということは、自分を幽して簒奪するか、あるいは弑するか、いずれかしかないのだけれど。
そうなったなら、自分の手で殺してやろうと決めている。
(子元は、私の後を追ってくれるだろうか?)

それでも、相手をどれくらい信頼しているかといえば、それは一言に尽きる。
床を共にするくらい、と。
それぐらい、子元は自分のことを好いているという確信がある。
“私が愛しているのは貴方であって、魏朝ではない”
そう、目の前で言い切る男だ。
たとえ死期が逼ったとしても、きっと自分は何事でも望みをかなえたいと思うだろう。
何事も、子元が望むままに――と。

ずっと一緒にいたいかと問われれば、もちろんだ。
ただ、相手に伝えたいことだけは、二人きりで言うものだと、彼は思っている。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ