「可哀想な男だ、あなたは」 「ばかばかしい…自分の身の上を顧みてから言うことですね」 「いや、…あなたは哀れだ」 笑う曹髦に、司馬昭はぞっとした。 誰よりも滅亡を見抜いていながら、美しい笑みとともに迎え入れられることに。 ふとそむけた玉顔の陰に映る、毒々しい深淵のような翳り。 どこか病んでも形は意外に美しく、細やかですらある愛情を、いやというほど見せられてきたのではなかったか。 幼さの残る天子がひどい扱いの後に見せる微笑みは、あれだけ苛立たしく思っていた烈祖の透き通るような鋭い微笑みだった。 兄が死ぬまで恋い焦がれた、禍々しいまでに神聖な天子そのものだったのだ。 (あな幼なさん!) 低く美しい笑い声が耳元をかすめていく。 (殿下、私の兄上をたぶらかすのは、もう止めにしていただきたい) (違うよ、子上…君のではない、私のものだ) (私のです、私が兄上を愛しているのだから) (ふふっ…違う違う…どうしてなのか、教えてやろうか、あな幼なさん) 「だって、私は彼を愛しているし、彼は私を愛しているから」 はっと唇を押さえたとき、吹き抜ける風に混じって哄笑が舞い上がっていった。 |