なぜ それが、捕らえられた後、公孫瓚がひたすら考え続けていることだった。 ――なぜ、あと一息早く、自刎しなかったか。 そうすれば、このような生き恥をさらすことはなかった。 詮ない悔嘆と解っていても悔やまずにはいられない、胸を拉ぎ潰すような後悔。 憤りに見開かれた瞳から、一筋、涙が流れた。 「けだものか、あれは」 報告を受けた袁紹は苦笑した。 この期に及んで、まさかそれほど凄惨な行動に出るとは思わなかった。 目を覚まし、己の置かれた状況を把握した公孫瓚は、凄まじい抵抗を見せた。暴れる彼を押さえつけようとした兵卒が、蹴り倒された挙げ句に喉を食いちぎられたのだ。 公孫瓚にとって、屈服するなどありえない。その牙は折れないことを、暗い檻の中で身をもって示していた。 「それにしても、だ」 喉笛を食いちぎるとは、いささか趣味が悪い。 「人を畏れぬ白馬には、調教が必要だな」 唇を歪めた袁紹の、その言葉には、愉悦の裏に陰湿な愛執が絡みついている。 ただ独りの貴人を獲るため莫大な力を費やすことは、袁紹の中で矛盾した行為ではないのだ。 「逢紀」 「はい」 「あれは生きてるか?」 「まあ、見苦しくない程度には……」 「よろしい、引き出せ」 命じると、傍らの長剣を掴んで立ち上がる。 その瞬間、彼はもう王者である。 |