写本

□玉瑣
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 美しい白馬を飼っている、と聞いていたが。
「なるほど、確かに…」
 微かな驚きを伴う呟きを聞き取ったか、
「ようやく、あそこまで調教した」
 自称天才の男は自慢げに笑う。
 だが於夫羅に言わせれば、よく飼い慣らした、とは到底評価しがたい。
 鎖と絹と宝石で飾り立て、牀上に縛り上げられた姿は、壇上の供犠のようなものだ。
「天才たる俺だからこそ、殿はあれの躾を託されたんだ」
 己に酔う男は、麗々しい犠牲を醒めた目で眺めやる於夫羅に気付かない。
「何せ、あれを初めて下したのは、この俺だ。俺の天才的着眼点、戦略あっての勝利だったのだからな」
「――どうやって」
 物問いたげな視線を受けて、麹義は唇を歪めた。
「利かん気も強いが、盛った様子は案外とそそるぞ」
 それで、全て飲み込めた。
「……いい趣味だな」
「俺じゃない、殿の御趣味さ」
 肩をすくめるが、於夫羅にしてみれば悪い意味で同属だ。
 いいかげんに会話を切って、部屋の鍵を開ける。
「傷は付けるなよ。調教し終えたら殿の館へ返すのだからな」
 くどいほどの念押しに、袁紹のいささか歪んだ執着が透けて見える。

――いい“御趣味”だな。

 二度目の皮肉は、今度は胸中に留めた。呟くなら、そこには確実に嫌悪感が滲んだろう。




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