美しい白馬を飼っている、と聞いていたが。 「なるほど、確かに…」 微かな驚きを伴う呟きを聞き取ったか、 「ようやく、あそこまで調教した」 自称天才の男は自慢げに笑う。 だが於夫羅に言わせれば、よく飼い慣らした、とは到底評価しがたい。 鎖と絹と宝石で飾り立て、牀上に縛り上げられた姿は、壇上の供犠のようなものだ。 「天才たる俺だからこそ、殿はあれの躾を託されたんだ」 己に酔う男は、麗々しい犠牲を醒めた目で眺めやる於夫羅に気付かない。 「何せ、あれを初めて下したのは、この俺だ。俺の天才的着眼点、戦略あっての勝利だったのだからな」 「――どうやって」 物問いたげな視線を受けて、麹義は唇を歪めた。 「利かん気も強いが、盛った様子は案外とそそるぞ」 それで、全て飲み込めた。 「……いい趣味だな」 「俺じゃない、殿の御趣味さ」 肩をすくめるが、於夫羅にしてみれば悪い意味で同属だ。 いいかげんに会話を切って、部屋の鍵を開ける。 「傷は付けるなよ。調教し終えたら殿の館へ返すのだからな」 くどいほどの念押しに、袁紹のいささか歪んだ執着が透けて見える。 ――いい“御趣味”だな。 二度目の皮肉は、今度は胸中に留めた。呟くなら、そこには確実に嫌悪感が滲んだろう。 |