なかなか使い勝手のよかった男だ、と、汗みずくで腰を使っている若者を見下す。 快楽を追い求めるのに必死な若者が気づくはずもないが、その視線は“見下ろす”のではなく“見下して”いた。 「おい」 青白い脚を大胆に開いて、挑発する。 結合部を見せ付けながら、笑った。 「退屈だ、もっと食わせろ」 不敵で妖艶な冷笑。だが、この男は気づくまい。 (退屈だな…) 長い睫がまたたいた。 最初に比べれば、だいぶましになった。が、それだけだ。 自分の快楽を追うだけで、こちらのことなど考えもしない。 どうかすると、体内に収まる相手の一物の感触が不快で、痛みすら感じる有様だ。 どうにも退屈で、萎えそうになるのをこらえて、目を閉じた。 紅い刺青を弄うように、黒く染められた爪が青白い胸元を慰め、滑っていく。 その感触を、自分ではなく、あの男の指だと思うことで、背中をぞくぞくとした快楽が貫く。 いつだったか、彼がいつも携えている白い扇で、こんな風に緩やかな愛撫を与えられ続けたことがある。 それも、延々、じっくりと焦らしながら、淫靡な言葉でなぶられながら。 もどかしくて、何度も身をよじった。そのたびに、後ろ手に縛られた帯の佩玉や、意地悪な羽扇を飾る連珠が鳴った。ちろちろと取り澄ました音が、いやに耳に残っている。 そして、最後には涙を流して懇願したのだ。 「抱いてくれ」と。 がくがくと腰を揺らして、悲鳴のように叫ぶ様子は浅ましいが、彼が相手なら恥ずかしいとは思わない。 そんなことを考えながら自らを慰めていると、どうにか快楽を覚えることができた。 「あの、…公子、さま…っ」 うわずった声に遮られ、甘い思考を中断する。 「なんだ」 手持ち無沙汰に自分の雄をまさぐる。 そこは青白い細身の体には不似合いなほど赤黒くそり返っていながら、口調や表情はおよそ欲情に遠い。 「出したいのか?」 節目がちに流れる視線は、恐ろしく高慢で妖艶。その猥らな艶やかさにあてられた若者は、必死で頷いた。 「お許しを…、もうだめです!」 「俺は逝ってないが…?」 冷たく微笑みながら、わざと腰をひねった。 きゅっと締まる後肛に、彼はつぶれた悲鳴を上げて、射精した。 すばやく腰を引き上げたおかげで、手間は省けた。こんな拙い情事で中に出されてはたまらない。 余韻にひたっているだろう汗だくの若者の、まだいくらか硬い股間を、青白い足の爪が踏みつけた。 「とんだ役立たずだな」 ぎりぎりと足の指の付け根に力を込めて締め付ければ、苦しげな悲鳴とともに、まだしつこく液体が吹き出た。 「挿れて腰を振れば悦ぶとでも思ってるのか、このまぬけ」 いいかげん、濡れた足指が気持ち悪い。 蹴りつけるようにして足を放し、床に落ちていた着物――この哀れな若者の上着で、ぬぐった。 そのまま、卓上へ放り出された自分の衣裳へ近づくと、陰陽の刻まれた双剣を引き抜く。 不穏な金属音に起き上がった若者の喉を一閃で切り裂き、続く二の太刀が左肩から斜めに骨ごと叩き斬った。 牀上の死体など気にも留めず、曹丕は隣室へ行った。 白い床に、赤い足跡が続く。 房室には、事後の沐浴のための水が用意されていた。 胸元へ返り血を浴びて、病的なほど白い体が鮮血に染まっている。 ぽたぽたとしたたる、その感覚、生ぬるく血なまぐさい、本能をくすぐる臭いに、思わず体が震える。 満たされなかった熱を鎮めるように、ゆっくりと水を浴び、血を落とす。 この後に待ち構える快楽を思い出して、薄い唇が微笑んだ。 それはまさしく、蠱惑的なあやかしだった。 血まみれの室内へ戻ると、手早く衣裳を身に着けた。 黒づくめで、染皮の高い襟で首筋まで覆うような、一見して禁欲的な衣裳。 だが、透けるように白い喉や胸元を見せ、腰の線もあらわな寸法は、ひとつ間違えば非常に倒錯的だ。 つややかな鴉の羽をちりばめた外套を羽織ると、何食わぬ顔で死者の文箱を開けた。 箱の底、二重に作られた隠し蓋の中から書簡を取り出すと、うっすらと笑った。 先のような妖しい微笑ではない、美しくも残忍な微笑だった。 そのまま、部屋を出る。 ついに、死体は一顧だにしなかった。 |