写本

□夜話
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第二夜



大胆に寝衣を脱ぎ捨て、どっかりと牀榻に坐る様子は、いっそすがすがしいほどに堂々としている。
娯楽に恥じることはない。
彼は、そう考えている。

「どうした、何が気になる?」
視線に気付いたのか、公孫瓚は小首をかしげた。
「いや、意外と傷が目立つ、と思ってな」
彼の体には、決して少ないとはいえぬ数の古傷が刻まれている。
色が白い上に血色が良いので、余計に目立つ。
孫堅の素直な感想に、傷の主は苦笑した。
「当たり前じゃ」
その指が、孫堅の胸元へ走る、やや大きな傷跡をなぞった。
「戦に出れば、誰だって傷つく」
「そうだな」
「であろう…?」
「だが――」
「わっ」
優しく褥の上へ押し倒された。
淡い灯火の影に、白い胸元が照らされる。
「お前の体には、瑕疵一つ無いと、勝手に思っていた」
大きな手が、優しく胸元を撫抱する。
「空想もよいところじゃ」
くつくつと笑って、見下ろす情人の頬を撫でてやれば、掌に軽く口づけがこぼれる。
「仕方ないだろう?」
前線へ騎馬を駆る将軍とは思えぬほど、彼の肌理は細かく、滑らかなのだから。
「夢を見るのも許してくれ」
落とされる接吻を優しく受け入れて、公孫瓚は笑う。
「許してやる」
「それは恐悦」
しのびやかな笑い声が響き、やがて甘やかな口づけに変わる。


薄皮が鈍く透けた傷跡は、その肌附が血の紅を上らせるとき、ひときわ赤く色づく。

後ろから攻めていれば、それはよくわかる。
乱れ、滑り落ちていく銀髪の合間から、いびつな傷跡がほの赤く透ける。

「きれいだ、伯珪」


――お前は血の赤を身にまとうとき、最も美しい。




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