こうしてみれば、短い、実に短い逢瀬であったと思う。 送り出す道に雲は容容と垂れ込め、薄く晴れた空は少し白い。 ――雨が来るのか。 「霊を留め、帰るを忘れしめん。歳既に晏ければ、孰んぞ予を思わん」 あまり上手いとは思えないが、それでも、彼は笑ってくれるだろうか。 彼は湿っぽい葬式が嫌いだろうから。 きっと、雨は降らない。 ――君、我を思うも、閑を得ざるなり きっと、彼はもういない。 彼がそこに居て、話し、笑い、怒り、泣いて、甘えることは、もうない。 寂しがり屋で気難しくて誇り高い、誰より美しい、あの人の姿は、もうない。 本当に、行ってしまうのだ。 この先、自分は彼を思い出すし、彼を夢に見ることはあるだろう。 それでも、今ほど深く、喪い逝く瞬間は無いだろう。 「さようなら、我が君」 ――俺は、ここにいるよ。 「さようなら」 了 |