写本

□玉蘭辞
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 こうしてみれば、短い、実に短い逢瀬であったと思う。
 送り出す道に雲は容容と垂れ込め、薄く晴れた空は少し白い。

――雨が来るのか。

「霊を留め、帰るを忘れしめん。歳既に晏ければ、孰んぞ予を思わん」
 あまり上手いとは思えないが、それでも、彼は笑ってくれるだろうか。
 彼は湿っぽい葬式が嫌いだろうから。
 きっと、雨は降らない。

――君、我を思うも、閑を得ざるなり

 きっと、彼はもういない。
 彼がそこに居て、話し、笑い、怒り、泣いて、甘えることは、もうない。
 寂しがり屋で気難しくて誇り高い、誰より美しい、あの人の姿は、もうない。
 
 本当に、行ってしまうのだ。

 この先、自分は彼を思い出すし、彼を夢に見ることはあるだろう。
 それでも、今ほど深く、喪い逝く瞬間は無いだろう。

「さようなら、我が君」

――俺は、ここにいるよ。

「さようなら」







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