「知っているか?」 陰陽の双剣をかざし、鎖の音も錚々と、優美な長身が舞い上がる。 「古の巫は、こうやって神を呼んだ」 軽やかな跳躍から、とん、と浅く爪先が地に触れ、すぐさま腰を落とし、昇るように伸び上がる。 しなやかに腰をひねり、構える腕はすらりと、あくまで高く。 花曇りに鈍く輝く双剣は、その長身に見合うだけの拵え。 にもかかわらず、飛翔にも似た剣舞は絹のごとく艶やかに、軽い。 ――嫋嫋秋風 洞庭波、木葉下 「汀に登り、君を待つ。君は我が胸にあり、されど告げず」 芳香がただよい始める。 舞に踏みしだかれた香草が、せせらぎに交じり、澄んだ香気を放つ。 それは剣が空を裂くごとに、裳裾が翻るごとに、あるいは馥郁と、あるいは微かに、満ちて彼の人を彩る。 ――室は水の中、蓮葉を葺き、 あやめの壁、庭は貝紫 ――棟木は肉桂、たるきは木蘭 辛夷の手摺をたどり 白止の堂上へ 「佳人は招き、我は行く」 ――薜茘の帷、蘭恵の窓。 石蘭を敷き、白玉で飾ろう ――蓮の甍に白止を重ね 結わえるは野ばら 百草、庭に満ち 芳馨高く、花は溢るる さわさわと風の声。 汀の波も豊かに、流れは川下る。 「九重の峰に神の出できて、我を求め、我をいざなう」 不意に、なめらかな黒い腕が、ほっそり尖った指先が、触れた。 にやりと、皓い歯が咲った。 「子、予の善く窈窕たるを慕う」 安心せよ、と、ひそやかに彼は笑う。 ――俺は、いつでもいるよ。 |