写本

□端陽
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勢いよく滑り出す二つの船は、白い飛沫を引きながらぐんぐんと青い江を走る。
「そーれ!」
舵取りの音頭に、えい、応、と勇壮な掛け声が響く。
漆と朱の船が色とりどりの幡をはためかせ、熱狂の中を泳いでいく。
坤船が一身、前に出て、両岸がどよめいた。
乾船に迫らんばかりに船体を寄せ、前に出ようとする。
「ひたすら直進して回り込ませるな!ぶつかっても構わん!」
「応!」
乾船の速度に対して、坤船は回り込もうと斜めに舳先を寄せた状態のままだ。
このままではぶつかる。
「ちっ!舳先を戻せ!」
体勢を崩された乾船は、再び併走の状態に戻る。
「呂都督、大胆ですね…」
「なに、興覇どのなら、ぶつかる愚は犯すまいと思ってな」
一方、坤船も負けてはいない。
「舳先一つ分でも出ればよいのじゃ、漕げ漕げい!」
「仕切りなおしだ、漕ぐぞ!」
「坤船に負けるな!」
「振り切れ!」
遅れを取り戻さんと追い上げる坤船、気勢を上げて進む乾船。
割れんばかりの声援と歓声、両岸は興奮の坩堝だった。





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