勢いよく滑り出す二つの船は、白い飛沫を引きながらぐんぐんと青い江を走る。 「そーれ!」 舵取りの音頭に、えい、応、と勇壮な掛け声が響く。 漆と朱の船が色とりどりの幡をはためかせ、熱狂の中を泳いでいく。 坤船が一身、前に出て、両岸がどよめいた。 乾船に迫らんばかりに船体を寄せ、前に出ようとする。 「ひたすら直進して回り込ませるな!ぶつかっても構わん!」 「応!」 乾船の速度に対して、坤船は回り込もうと斜めに舳先を寄せた状態のままだ。 このままではぶつかる。 「ちっ!舳先を戻せ!」 体勢を崩された乾船は、再び併走の状態に戻る。 「呂都督、大胆ですね…」 「なに、興覇どのなら、ぶつかる愚は犯すまいと思ってな」 一方、坤船も負けてはいない。 「舳先一つ分でも出ればよいのじゃ、漕げ漕げい!」 「仕切りなおしだ、漕ぐぞ!」 「坤船に負けるな!」 「振り切れ!」 遅れを取り戻さんと追い上げる坤船、気勢を上げて進む乾船。 割れんばかりの声援と歓声、両岸は興奮の坩堝だった。 |