「お前、寂しくはないのか」 縁談を断ったという公孫瓚に、思わず尋ねた。 すると、このどことなく透明な鋭さを持つ人は、二、三またたいて、こう言った。 「お前はどうだ?」 「俺が…?」 「寂しくはないのか?」 改めて問われれば、ふと、馬超はためらった。 「わからん」 この世に、家族と呼べる者は二人しかいない。長きにわたって支えあった従弟と、未だ父を信ずることのできない我が子と。それなのに、改めて寂しいかと問われれば、即答できない。 だから、もう一度、尋ねてみた。 「では、あんたはどうなのだ、寂しくはないのか」 「俺か?」 ふと、彼は笑う。 「わからん……忘れてしまった」 「忘れた…?」 戸惑うような馬超の声を後目に、銀色の髪が回廊にたなびく。 「俺にも、息子がいた。名を続といってな」 「…今は、どうしている」 「死んだよ」 「そうか」 「十数年も前になるかの……あっけないものじゃ。戦場で死なずとも、病には勝てなんだ」 鵲でもあろうか、鳥が群なして飛んでいく。 大きな赤い瞳が何を映しているのか、馬超には解らない。 知らないほうがいいのだと、思った。 「死のうの命を拾った子じゃ…生き延びてほしかったがな…」 ぽつりと呟かれた言葉が、静かに、冬の湖面へ落ちていった。 |