ほんのちょっと、構ってあげようとしただけなのに。 菓子を食べていたら、妹の賢が近寄ってきて、持っている食べ物を珍しそうに指差した。 「…食べたいの?」 「うん」 「いいよ」 ちょっとちぎって、小さな口へ持って行った。すると妹は、ぱくっと菓子のかけらを食べた。もぐもぐと口を動かしながら、にこっと笑う。 おいしかったのかな、と思うと、曹叡も嬉しくて、もう一かけ、もう一かけと、やわらかい菓子を、それ以上に柔らかそうな妹の口元へ運んでやった。 そうして、最後の一口を食べさせたとき。 菓子だと勘違いしたのか、指をしたたか噛まれた。 小さいけれども歯は生えている。当然、痛い。 あまりの痛さに、びっくりして妹を振りほどき、指を見ると、くっきりと歯形が付いている。 そのとき、いきなり振り払われたことにびっくりしたのか、曹賢がわっと泣き出した。 「賢?どうしたの?」 折悪しくというか、姿を見せたのは母だった。 この状況を見れば、十中八九、兄が妹を泣かせたのだと思うだろう。だから、曹叡はとっさに、本当のことを言った。 「賢が噛み付いてきたから、びっくりして、押しちゃったの」 まあ、と甄洛は柳眉を寄せ、べそをかく曹賢のもとへ歩み寄った。 「叡、びっくりしたのは解るけれど、賢も突き飛ばされて怖かったと思いますよ?兄上なのですから、賢に謝りましょうね」 「えっ…」 曹叡はびっくりした。 だって、噛み付いてきたのは賢のほうなのに。 「だって……賢のほうが悪いのに!」 「叡、聞き分けのないことを言ってはだめよ」 自分が全て悪いように言われて、曹叡は我慢ならなかった。 「じゃあどうして賢には怒らないの!?ぼくだってわざとじゃないのに!賢ばっかりずるい!泣いたら何でもぼくのせいにするの!賢なんて大嫌い!母上なんて大っ嫌い!」 顔を真っ赤にして叫ぶと、曹叡は院の向こうへと走っていってしまった。 「お待ちなさい、叡!」 遠くで母が驚いたように呼んでいたが、絶対に振り返ってなんかやるもんか、と思った。 |