写本

□そうけにっき
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 ほんのちょっと、構ってあげようとしただけなのに。

 菓子を食べていたら、妹の賢が近寄ってきて、持っている食べ物を珍しそうに指差した。
「…食べたいの?」
「うん」
「いいよ」
 ちょっとちぎって、小さな口へ持って行った。すると妹は、ぱくっと菓子のかけらを食べた。もぐもぐと口を動かしながら、にこっと笑う。
 おいしかったのかな、と思うと、曹叡も嬉しくて、もう一かけ、もう一かけと、やわらかい菓子を、それ以上に柔らかそうな妹の口元へ運んでやった。
 そうして、最後の一口を食べさせたとき。
菓子だと勘違いしたのか、指をしたたか噛まれた。
 小さいけれども歯は生えている。当然、痛い。
 あまりの痛さに、びっくりして妹を振りほどき、指を見ると、くっきりと歯形が付いている。
 そのとき、いきなり振り払われたことにびっくりしたのか、曹賢がわっと泣き出した。
「賢?どうしたの?」
 折悪しくというか、姿を見せたのは母だった。
この状況を見れば、十中八九、兄が妹を泣かせたのだと思うだろう。だから、曹叡はとっさに、本当のことを言った。
「賢が噛み付いてきたから、びっくりして、押しちゃったの」
 まあ、と甄洛は柳眉を寄せ、べそをかく曹賢のもとへ歩み寄った。
「叡、びっくりしたのは解るけれど、賢も突き飛ばされて怖かったと思いますよ?兄上なのですから、賢に謝りましょうね」
「えっ…」
 曹叡はびっくりした。
 だって、噛み付いてきたのは賢のほうなのに。
「だって……賢のほうが悪いのに!」
「叡、聞き分けのないことを言ってはだめよ」
 自分が全て悪いように言われて、曹叡は我慢ならなかった。
「じゃあどうして賢には怒らないの!?ぼくだってわざとじゃないのに!賢ばっかりずるい!泣いたら何でもぼくのせいにするの!賢なんて大嫌い!母上なんて大っ嫌い!」
 顔を真っ赤にして叫ぶと、曹叡は院の向こうへと走っていってしまった。
「お待ちなさい、叡!」
 遠くで母が驚いたように呼んでいたが、絶対に振り返ってなんかやるもんか、と思った。





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