建業では、丞相の陸凱が出迎えてくれた。彼もやはり、気遣わしげに表情を曇らせている。 聞けば、やはりというか、陸抗の羊祜との親交について、帝が気を尖らせているとのことだった。 「できるだけ、誤解を解くようには努めたのだが…」 陸凱のことだから、正面切って、理路整然と申し開きをしてくれたに違いない――それはもうガミガミと。 こうやって後方をしっかりと押さえていてくれる、この遠縁の丞相には、本当に頭の下がる思いだった。 それだけに、今回ばかりは申し訳なさが先に立った。 「あなたが謝る必要はございませんぞ、幼節どの」 陸抗が謝罪を口にするより早く、陸凱がそれを遮った。 お見通しですよ、といわんばかりに、にんまりと笑っている。 「今の襄陽は極めて平穏、これは稀有で得がたい情勢です。徒に紛争を起こす方が、よほど無能。あなたは都督として、立派に勤めを果たしておられるだけ。何を謝る必要がありますか?ん?」 それに、と、いたずらっぽい笑顔で、陸抗の耳元へ囁いた。 「この乱世に、真の誼を通じるなど稀有。まこと、快なり…!」 陸抗の唇が、静かに微笑んだ。 いってらっしゃい、と優しく送り出す声を背中で聞きながら、陸抗は深く息を吸った。 |