写本

□妬情
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たとえば、今。
その対比が美しいからと。
あるいは、その意匠に興を引かれたからと。
白い肌に浮かぶ紅の軌跡に触れるとする。
すると、彼はこう言うだろう。

――なんだ、誘っているのか?

皮肉っぽい微笑を浮かべて、揶揄するように。
それでいて、犀利な目元をほんの僅か――だが、落とすには充分すぎるほど――蠱惑的に細めるのだ。
それはそれで、素晴らしい。
ぞくりとするほど美しく、恐ろしいほどに妖艶な、堕落の化身。
なんの不満があろう、否、あるはずがないのだ。
それでも。
昼に見た光景が腹立たしかった。
生真面目で堅苦しいくせに、どこか人懐こい友人。
その彼が、興味深げに、主であり友である人の肌に――描かれた模様に触れ、なぞる。
須臾にして指は離れ、続く主の屈託なき笑顔、笑声。
(――ああ、どうして)
まったく。
自分には見せてくれぬ表情を、彼には見せるというのか。
(その代わり、お前は彼の知らぬ、かの人の表情を、声を、知っているではないか)
頭のどこかで囁かれる声は、敢えて黙殺する。
自分とて人。
たまに嫉妬を覚えてみても良いではないか、と。





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