たとえば、今。 その対比が美しいからと。 あるいは、その意匠に興を引かれたからと。 白い肌に浮かぶ紅の軌跡に触れるとする。 すると、彼はこう言うだろう。 ――なんだ、誘っているのか? 皮肉っぽい微笑を浮かべて、揶揄するように。 それでいて、犀利な目元をほんの僅か――だが、落とすには充分すぎるほど――蠱惑的に細めるのだ。 それはそれで、素晴らしい。 ぞくりとするほど美しく、恐ろしいほどに妖艶な、堕落の化身。 なんの不満があろう、否、あるはずがないのだ。 それでも。 昼に見た光景が腹立たしかった。 生真面目で堅苦しいくせに、どこか人懐こい友人。 その彼が、興味深げに、主であり友である人の肌に――描かれた模様に触れ、なぞる。 須臾にして指は離れ、続く主の屈託なき笑顔、笑声。 (――ああ、どうして) まったく。 自分には見せてくれぬ表情を、彼には見せるというのか。 (その代わり、お前は彼の知らぬ、かの人の表情を、声を、知っているではないか) 頭のどこかで囁かれる声は、敢えて黙殺する。 自分とて人。 たまに嫉妬を覚えてみても良いではないか、と。 了 |