写本

□掌編
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内院の片隅で嫂を見た。
桃の花を見上げて、あのうつくしい目を涙でいっぱいにして。
ふと、艶やかな銀色の髪が目に映った。
その豊かな銀の川に、ひとひらの花弁。
思わず、彼女の側に歩み寄った。

花弁をすくい取るのと、彼女が振り返るのは同時。
「まあ、子建さん」
金鈴のような声が何かを奏でるより早く、花びらを彼女に差し出す。
「花も、落ちるべき場所を知っているようです」
佳人はゆっくりと花びらに触れ、やがて、大切そうに胸元へ抱き締めた。

銀色にひたされた指先が、熱を持っていた。


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